歌舞伎座 『九月花形歌舞伎』 (2)

歌舞伎座新開場記念 新作歌舞伎 『陰陽師』

作・夢枕獏 / 脚本・今井豊茂 / 補綴・演出・斎藤雅文

『陰陽師』に、<滝夜叉姫> と添え書きされている。観ての概略は、平将門が都から東国に帰り乱を起こす。将門の友である俵藤太に将門討伐の勅命が下る。藤太は将門の行動が納得できず、自分の目で確かめた上でどうするかを決めようと考える。しかし将門は、藤太が知っていたかつての将門ではなく藤太は将門を討つこととなる。

それから20年後都では、盗賊が荒らしまわったり、子供を宿した 母親が殺されたりと不穏な空気で満たされている。そんな時、帝の命で、陰陽師の安倍晴明が平貞盛の病を治すべく様子を見に行く。晴明には、常に友であり笛の名手の源博雅がそばについている。博雅の笛の音に魅せられて現れた美しい娘は、将門の娘滝夜叉姫で、盗賊を率い、貞盛の病も滝夜叉姫が係っていた。

将門を焚き付け乱を起こさせたのは興世王で、将門亡き後、将門を慕う娘・滝夜叉姫を利用し将門討伐に加わった者たちを亡き者とし、将門の再生を企んでいたのである。この時には興世王は実は藤原純友なのである。しかし、それも晴明の陰陽師の力によって打ち負かされてしまう。最後は、将門と藤太の友情、晴明と博雅の友情が前面に出され、滝夜叉姫も博雅の美しい笛の音に心穏やかになることが出来るのである。

俵藤太はムカデ退治で有名な藤原秀郷で、将門討伐への途中、ムカデ退治の場面もある。さらに、将門の愛妾桔梗の前と藤太はかつては恋仲であり、藤太を将門の闇討ちから逃がしてやり、興世王に殺される。将門と桔梗の前との子供が滝夜叉姫である。

場面は現在、20年前、現在、20年前、現在と設定し、20年間その怨念を興世王を通じて純友は育て続け将門再生を企てるのである。ただ、将門の死までの前半は面白味にかけていた。後半からの晴明の信太(しのだ)の森の白狐の血を受けているという事を前提としての陰陽師としての力に対する晴明の微かな悲哀と、揺るぎなき血を受けている博雅の屈託ない交流が場面を、明るくしてくれる。そして、興世王の呪縛から解き放された将門と藤太の将門に対する友情が締めてくれた。

『忍夜恋曲者』の滝夜叉姫のイメージがあるので、今回の<滝夜叉姫>の副題は必要ないような気もする。最初の何かに乗って現れた滝夜叉姫の出ももう少し工夫が欲しかった。後半の心理劇の加わりによって助けられたように思う。

安倍清明・ 染五郎 / 平将門・ 海老蔵 / 興世王・ 愛之助 / 桔梗の前・ 七之助 / 源博雅・ 勘九郎 / 俵藤太・ 松緑 / 滝夜叉姫・ 菊之助

平将門が都を去ることを告げる時と藤太と東国で会う場面は興世王に操られているということなのか海老蔵さんが全然生かされてなかった。興世王の企みに従わず再生を拒んだところでやっと見せ場がありホッとした。染五郎さんの狐を使っての晴明の心を遊ばせて自分を解放させる下りは、笛の音と共に美しい場面であった。その晴明の心の内を理解することなく、屈託なく、自分は晴明、君の友達だよと云う勘九郎さんと晴明のコンビが中々良い。松緑さんもまだ形と無らない動きなのでしどころに精彩がなかった。愛之助さんと染五郎さんの異界での争いであるが、その辺は納得出来た。時々出没する蘆屋道満の亀蔵さんも異界の愛嬌者として活躍していた。菊之助さんが将門を慕う気持ちはでているのだが、妖艶な滝夜叉姫としての輝きどころがなかった。

小説も映画も観ていないので、こういう事なのかと楽しませては貰った。

 

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