加藤健一事務所 『Be My Baby いとしのベイビー』

どこから押してもふかふかのコメディである。セットからして、幼稚園のお楽しみ会と思わせられるが、そのわけありのわけは次第に解明していく。スコットランドを車で走り、スコットランドからサンフランシスコまで飛ぶのである。きちんと飛行機で。そのつど、観客は自分のCGの洗剤?いや潜在能力を駆使して舞台背景を作りあげるのである。時々、黒い帽子とお洋服のちょろちょさんが見え隠れするが、それは洗剤を使って綺麗にする。

誰が主人公かと言えばそれはもう<BeMyBaby>である。本当は赤ちゃんなんですが、生まれたばかりですから舞台には出せないので、お人形の赤ちゃんですが、侮れない。最後は、観客全部の<BeMyBaby>にチャッカリなってしまってる。これだけの作り物を大奮闘で奮闘している様子は微塵もなくやってのけてるのが役者さんたちである。あらすじを少し。

ロンドン育ちの19歳の娘(グロリア)が恋をして、結婚するためにスコットランドへ育ての親である叔母さん(モード)と車で向かう。その相手はお屋敷に住み執事のような人(ジョン)に育てられた青年(クリスティ)。若い二人はホットでも、ジョン(加藤健一)とモード(阿知波悟美)は、若い二人の親代わりで、スコットランドとイングランドでは生活に対する考え方も違い、逢ったときから非友好的である。クリスティ(加藤義宗)とグロリア(高畑こと美)は無事結婚。ところがわけあって、グロリアの従妹の生まれたばかりの赤ちゃんをサンフランシスコまで、ジョンとモードが引き取りにいくこととなる。その珍道中が笑わせてくれる。その珍道中に何役もの変化芝居を楽しませてくれるのが、粟野史浩さんと加藤忍さん。さすがジョンとモードはその変化にまどわされることなく自分たちの役に徹していて笑わせつつも、粟野さんと忍さんには負けてはいない。ここで崩れると筋のないただのお笑いになってしまうがその点はさすが押さえている。

加藤健一さんと阿知波悟美さんは初共演ということだが、息が合っている。飛行機の座席での場面からして間が上手い。阿知波さんは座席を倒して同じ失敗を数回するのであるが、その突然の動きが会話のペースの中で動きのギャグと言えば良いのか、お笑い芸人さんより面白い。台詞も必要でそれを聞いてるだけで面白いのに、そこに良くありそうな動きが可笑しさを倍増する。それでいて相手が失敗すると本人の見えないところで、バックアップするのが微笑ましい。

この二人の間に赤ちゃんが加わる。この赤ちゃんはお人形である。ところが、抱いたりミルクを飲ませたり、ベビーカーに乗せてるときの赤ちゃんの可愛らしい表情や様子を台詞で伝えてくれる。その表現が観客に乗り移ってしまうのである。お人形でなくなるのである。ホテルの部屋に赤ちゃんを閉じ込めてしまい合い鍵を待てずにドアに体当たりするジョンの真剣さ。芝居の笑いというものは、登場人物が困っていれば困っているほど可笑しいものである。その喜劇芝居のツボをおさえつつ、大人の恋もくり広げてくれる。

この赤ちゃん、若い二人の気まぐれさを最初から見抜いていたのか、自分の一番良い居場所を獲得するのである。なかなかである。

この芝居の作者は劇中歌も指定していて、それも浮き浮きした気分にさせてくれる。

「Be My Baby」(ザ・ロネッツ) 「Hound Dog」「Heartbreak Hotel」「Let Me Be Your Teddy Bear」(エルビス・プレスリー)

作・ケン・ラドウィッグ/訳・小田島恒志、小田島則子/演出・鵜山仁

 

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