映画 『暖簾』

山崎豊子さん原作の映画化である。川島雄三監督と、森繁久彌さんの組み合わせである。森繁さんは『夫婦善哉』のぼんぼんではなく、丁稚あがりの叩き上げの商人である。

ある日、昆布屋を営んでいる浪花屋利兵衛(中村鴈治郎)の後を付けてくる少年がいる。坂道があり、織田作さんの原作ではないが、織田作さんの大阪を彷彿とさせる。その少年は淡路島から大坂で働きたいと出てきた少年で、利兵衛も淡路島出身でなんとか使って貰えることとなる。店に連れて来られ、店の裏奥へ暖簾を頭で開け少年・五平は主人に<暖簾は大坂商人の魂>で、何んということをするのかと怒られる。

五平(森繁久彌)は身を粉にして働き、暖簾分けをして貰う。それは良かったのであるが、五平が結婚しようと思っていた同じ店の女中お松(乙羽信子)とは一緒になれず、利兵衛の姪のお千代(山田五十鈴)を押し付けられる。お松は五平を怒らしたらすぐ謝るのであるが、お千代は気が強く謝るどころではない。しかし、商売にかけてはしっかり者である。

建てた工場が伊勢湾台風で駄目になり資金繰りに困り本家に行くが、利兵衛はすでにこの世を去り、女将さん(浪花千枝子)にこっぴどく意見され助けてもらえない。その時、お千代は暖簾を担保に、五平をもう一回銀行に行かせるのである。

太平洋戦争があり、昆布は国の統制下に置かれてしまう。長男は戦死して、いい加減な次男・孝平(森繁久彌)が戦地から帰って来る。いい加減さは、昔のやり方に捉われないということでもあり、次々と新しいやり方を考えだし、店を建て直し、五平はそれを見届けて亡くなる。

森繁さんの演じ方、乙羽さんと山田さん二人の女優さんの描き方の違い、後半に入ってからの二役の森繁さんなど、筋とからめて楽しめる作品である。主人の中村鴈治郎さんも大阪商人そのもので、さらにその女将さんの浪花さんが手ごわくていい味である。

このレンタルDVDには、特典として、撮影の岡崎宏三さんが撮影現場を映した映像がついている。音声はないが、貴重な映像である。川島監督が細かい演技をつけられているのには驚いた。森繁さんが主人のお墓参りをする場面で、乙羽さんが先に来ていて再会するのであるが、その時、森繁さんが乙羽さんの首もとの汗を拭いてあげる。それが、前から後ろからとしつこい演技で、例の森繁さんの女好きの演技の延長でご自分での工夫かと思ったら、川島監督が実際にされて演技指導されていた。役者さんのそばに寄る映像も多々あり、川島監督は細かく演技をつける監督さんなのかと、ちょっと意外であった。この細かさで、監督ならではの女性像を造っていったのであろうか。

お松に会って、男心がよみがえったという感じをあらわしたのであろうが、言われなくても森繁さんは何か考えたような気がするが、その前に川島監督は、こちらの言い分を伝えたのかもしれない。こういう駆け引きも想像できて、嬉しい特典であった。録画と違い、こういう特典があることもあるのが、レンタルの楽しみでもある。

その演技指導は、違う監督さんと違う役者さんの場合と正反対のやり取りであったことを知ったことでも興味深い事であった。その映画とは、やっと観ることができた『乾いた花』である。

そして、『暖簾』の科白を大阪弁に直したのが藤本義一さんで『川島雄三、サヨナラだけが人生だ』を書かれ本にされている。

『暖簾』  監督・川島雄三/原作・山崎豊子/劇化・菊田一夫/脚本・八住利雄、川島雄三/撮影・岡崎宏三/出演・森繁久彌、山田五十鈴、乙羽信子、浪花千枝子、中村鴈治郎

 

 

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