映画 『破戒』『乾いた花』『鋪道の囁き』(2)

『乾いた花』は二度目なので、最初に観たときのドキドキ感はない。自分の観た時の印象で映画を再構築しているから、役者さんの登場や場面など、自分の中での登場と違っている。それと、映像が途中で数か所切れているように感じた。ただ、表情などはじっくり観察できた。冴子が、村木が人を殺し終わったあと微笑むのだが、その微笑みの意味が解らなかったので、それも虚無感の一つとしておいたが、加賀まりこさんがトークで、篠田監督からマリアのような微笑みをしてくれと言われたと話された。あの時の冴子は、村木が殺しのあと冴子を見つめる眼に対して、村木に自分が殺された時の恍惚感の微笑みではないかと思ったのだが、今はその解釈としておく。

加賀さんのトークは、演じた時の状況など、簡潔に話され、観た者としては、映画の場面に即反応でき、裏話も手短に話される。『泥の河』では、小栗庸平監督から、お化粧なしの素顔で、演じて欲しいと言われたが、加賀さんは少年から見た母親は美しいはずだと、周囲のスタッフの意見で決めて欲しいと提案したところ、ほとんどのスタッフが加賀さんの意見のほうに賛成したのだそうである。皆さんが母親の場面は白黒なのにカラーと思ってくれて嬉しいですと言われていた。私は少年がカニに火をつけて友達に美しいだろうというところと母親が呼応して観ていて切なくなり今もその炎には色がついているのである。『麻雀放浪記』では、真田広之さんを叩くシーンで、パイの並べ方が上手く出来ず20数回叩いたそうで、この映画は、良い機会なので観なおすことにする。

加賀さんは高校生の時、住まわれていた神楽坂を歩いているとき、篠田監督と寺山修司さんにスカウトされ初映画が『涙を、獅子のたて髪に』である。

その神楽坂で、父の制作映画を上映できて親孝行ができましたと言われた映画が『鋪道の囁き』である。この映画は当時正式には公開できず、その後行方がわからなかったが、アメリカの大学に保存されていたのである。保存状態がよく、映像も音も綺麗である。ジャズが主人公のような映画であるから、音の良さには驚いた。

1936年の作品で、日本のアステア&ロジャースを目指した映画で、タップダンサーの中川三郎さんのタップが素晴らしい。甘いマスクの美男子で演技は下手、これが若き日の中川さんなのであろうかと観ていたら突然、ジャズシンガーのベティ稲田さんの歌でタップダンスを始めたのには驚いた。この場面と、バンドコンクールで、中川さんとべティ稲田さん二人で歌いタップダンスを踊る場面を観れただけでも、よくフィイルムが残っていてくらたと思う。映画のあらすじはたわいない。アメリカ帰りのジャズシンガーが、興行者に騙されそれを守る男がいて、ジャズシンガーはバンドマンでタップダンサーの男と出会い、結ばれるという和製ミュージカルの卵といった感じである。監督が鈴木傳明さんで、この方も演技は下手である。演技性に中心をもってきていないのであろうが、道化役の俳優さんは上手いし、その動作も計算されているので、軽いタッチで描くということであったのかもしれない。それに比べ、音楽、歌、タップはしっかりしているので、その落差が可笑しい。

和製オペレッタは、その流れを調べていないが、傑作は1939年の『鴛鴦歌合戦』(マキノ正博監督)である。出演は片岡千恵蔵さん、志村喬さん、ディク・ミネさん、市川春代さんなどである。

トークショーの司会者である横堀加寿夫さんが、実は、ディク・ミネの息子でしてと言われたときは、驚いてしまった。加賀四郎さんの映画が成功していたら、ディク・ミネさんは当然参加されていたであろう。映像と音が良いだけに、新しさ古さとが交差する摩訶不思議な映画である。この映画が流布していたら、ジャズも特定の世界だけで楽しむ音楽でなくもっと広く浸透していたかもしれない。

 

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