加藤健一事務所『ブロードウェイから45秒』

ニール・サイモン作であるが、名前はよく耳にするが、彼の作品は観ているようでどうも観ていなかったようである。

『ブロードウェイから45秒』。この作品の芝居に関しては、残念だがラストは書けないのである。この作家の手の内で転がされて、ラストを迎えると楽しさが十倍返しで、失敗しない作家の腕の中である。

出てくる登場人物が、超個性的。それも演劇を愛する人々の溜まり場のカフェ、喫茶店である。店には沢山の写真が貼られている。スターの写真ではない。名前を世に出すことの出来なかったスターを夢みた人々の写真である。この店の主人はスターは手を貸す必要はない。手を必要としているのは若い演劇人の卵であるとの主義で、何かとそういう人々を手助けしてきたようである。

常連客には、現役のコメディアン、現役の役者、役者をめざす娘、脚本家をめざす男、プロデュサー、芝居大好きの女性二人、そして芝居には全然関係の無い老夫婦、この店をきりもりする経営者夫婦である。これだけの登場人物の人物像を軽快で自己主張の強い台詞を捉えていくのである。笑いたいのに、笑えず振り回される。

そして、登場人物の人物像、考え方まで把握できたと思ったら、こちらは、昼は歌舞伎、夜は翻訳劇のスケジュールで疲れのためか眠気が少し起こる。そこへ、コメディアンのお兄さん登場。この兄弟の掛け合いが面白い。なんだか、ニール・サイモンにこちらの観劇状況を察知されているようである。今まで笑わなかったのを取り返すように声を出して笑ってしまう。コメディアンとしてのシリアスな話も出てくるが、全然それを理解しないお兄さん。

そして興味深かったのが、観客が芝居に出資金を出すというシステムがあるようで、もし芝居が当たれば配当金があるのであろうか。芝居好きの客が出資金を出した話をしている。その芝居の題名が気に入って出資するのである。ところが・・・

笑っているうちに、話が違う方向に展開し、そうだったのかと思っている間を外さず次の展開へとつながる。観客がこの芝居の中にに入っている心理状況を、ほくそ笑んで操作している作家、それが、ニール・サイモンである。頭を抱えて考えているのかもしれないが、ほくそ笑んでいる方が格好いい。

ただし、下手な役者さん達では、作家の意図するように観客を操作できない。操作できる役者としての技がいる。今回はそれが、そろったということである。今回はではなく、今回もであろうか。こういう騙されかたは大歓迎である。

そして、次の加藤健一事務所の公演ポスターもお店に張られていて、話がうまくそこへ繋がるのである。話せないことの多いお芝居でのお芝居の話しである。時には沈黙は金なり?

 

作・ニール・サイモン/訳・小田島恒志、小田島則子/演出・堤泰之

出演・加藤健一、石田圭祐、新井康弘、天宮良、加藤義宗、加藤忍、占部房子、田中利花、佐古真弓、山下裕子、  滝田祐介、中村たつ

場所/紀伊國屋サザンシアター

 

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