歌舞伎座12月 『雷神不動北山櫻』(2)

『雷神不動北山櫻』の大詰めは、早雲王子の陰謀が明らかとなり、王子を捕らえようと捕り手との大立廻りとなる。この立廻り、大勢が息を合わせて豪華絢爛に見せてくれる。最期は、不動明王(海老蔵)が王子を戒め、左右に童子を従え宙に鎮座するのである。

今、熊野が頭の一部に存在するので、王子とか童子となると、そちらに引っ張られてしまう。童子いえば、東京国立博物館での「国宝になってもいいかな」とでも言いだしそうな『善財童子立像』を思い出してしまう。安倍文殊院で逢ったときは、あの独特の姿が可愛らしいと思ったが、まさか国宝で、東京で再びお逢いできるとは思わなかった。

そして今、某新聞の夕刊で、内田康夫さんが『孤道』を連載されている。その始まりが、熊野古道の中辺路(なかへち)にある「牛馬童子像の首が切られた」という事件からなのである。友人が二回目の熊野古道に行き、牛馬童子像のある道を歩くと聞いたばかりでタイミングが凄い。こちらも可愛らしい像だったようで、後日話しが聞けるであろう。内田康夫さんには『熊野古道殺人事件』もあり、さっそく読み、友人にも古本屋で見つけて熊野に行く前渡す。

足摺岬から竜串海岸 四国旅(4) で、初めて<補陀落渡海>を知ったが、そのことが『熊野古道殺人事件』では関係してくる。読み始めて、戦中の特攻隊や人間魚雷を思い描いたが、作者もそのことに触れている。道成寺もでてくる。佐藤春夫の詩『少年の日』もでてくる。『佐藤春夫記念館』は、新宮に行ったら是非訪れたいと思っていた場所である。内田さんと、浅見さんは時間の関係で訪れていない。

熊野古道には、「王子」というのが沢山でてくる。熊野三山の御子神(みこがみ)を祀る祠なのだそうである。かつては熊野九十九王子と称されていたらしいが、江戸時代にすでに多くが廃絶となったらしい。

歌舞伎『雷神不動北山櫻』と直接関係ないが、まだ訪れていない想像の世界の熊野と空気が重なるのである。

そしてもう一つ感じたのは、役者さんのことである。現猿翁さんの育てられた役者さん達が、今の歌舞伎界に不可欠の存在となっていることである。歌舞伎役者の血の方、歌舞伎と関係なく飛び込んだ方、その役者さんが育っていなかったら、これだけ、あちらこちらでの歌舞伎上演はあり得なかったと思う。

猿翁さんが舞台から引かれてから、猿之助一門は、玉三郎さんなどにも厳しく指導されていた。様々な風を受けての猿之助一門の成長である。門之助さん(関白基経)、市川右近さん(小野春道)は、位にあった雰囲気をだせる役者さんとなった。笑三郎さん(腰元・巻絹)は出が少なくても、芝居を締めて面白くしてくれる。猿翁さんの功績は大きいと思う。

その他では、右之助さん(秦民部)、市蔵さん(八剣玄蕃)が善悪の脇を固めている。亀三郎さん(白雲坊主)、亀寿さん(黒雲坊主)のコンビも、脇で務めて来た成果がでてきている。尾上右近(秦秀太郎)さんも、11月の成果を無駄にしていない。久方ぶりの道行さん(八剣数馬)も健在。最後は市蔵さんとの童子コンビ。

愛之助さん(文屋豊秀)は、海老蔵さんが濃いから遠慮せずもっと前面に出ても良いのでは。獅童さん(早雲の家来・石原万平)は、歌舞伎的台詞の工夫がほしい。児太郎さん(錦の前)と松也さん(小野春風)は、姫君、若殿のふくよかさが欲しい。

寒さも厳しくなり、筋肉も硬くなるであろうから、これからの時期の役者さんたちは、怪我のないように努められて欲しい。

 

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