映画『長屋紳士録』と『日本の悲劇』

築地川から縁続きで小津安二郎監督の映画『長屋紳士録』と木下恵介監督の『日本の悲劇』につながる。

『長屋紳士録』と『日本の悲劇』は戦後の親子の関係がえがかれていてなんとなく対になってしまった。もうひとつは音楽である。音楽といえるのかどうかわからないが、『長屋紳士録』はのぞきからくりの口上で、『日本の悲劇』は流行歌である。

『長屋紳士録』は、長屋に一人の少年の出現によって波風がたつ。路上占いを仕事にしている笠智衆さんが、九段で父にはぐれたという少年がついてくるので仕方なく連れて帰ったがどうしようかということになり、金物屋のおたね・飯田蝶子さんが一晩泊めることとなる。

この少年次の朝には布団に大きな地図を作ってしまい、干した布団の前である。おたねさんはうちわではやく乾かすようにと少年に渡すそのうちわがぼろぼろで、おたねさんの怖い顔とあいまって可笑しさがおこる。

みんな困ったすえ、少年がここにくる以前に住んでいた茅ヶ崎に行ってみたらということになる。当たりばかりのひもくじをおたねさんは最初にひき、貧乏くじをひいたと文句をいいつつ茅ヶ崎にいくが、父親はおらず受け入れてもらえない。

おたねさんは、少年に、お前は父親に捨てられたのだと決めつける。

長屋では長屋うちの集まりがあり、染め物師の坂本武さんがその長に選ばられたようである。そこの息子がくじに当たってそのお金で大人たちは一杯やるのであるが、そこで笠智衆さんがのぞきからくりの口上をやる。皆お茶碗に箸で拍子をとるのであるがそれが面白いし、笠さんが上手である。本物を聞いたことがないが、そうであろうと思わせる調子のよさである。『不如帰』である。お金を勝手に使われむくれていた子供も一緒になって調子をとっている。それほど、のぞきからくりの口上というものが、庶民のお気に入りだったのである。ここで長屋の住人は一つ和みをえるのである。

次の日少年はねしょんべんをしていなくなる。心配になるおたねさん。探すときにも築地本願寺が映り、川では魚つりの人もいる。築地川である。

少年はまた笠さんに連れられて戻ってくる。九段へ行っていたのである。おたねさんは少年に情が移り動物園にいき写真屋で写真までうつすが、少年の父がむかえに来る。喜ぶおたねさん。自分の心の動きをおもいやり反省もして、どこかに引き取るような子供はいないかと長屋の紳士たちに尋ねると上野の西郷さんの銅像あたりが良い方角だと教えてくれる。その場所が映される。多くの戦争孤児の子がたむろしている。そこで映画は終わる。おたねさんが上野へ行ったのかどうかもわからない。おたねさんが行ったとしたらどうおもうかもわからない。

長屋のおたねさんによって、戦争孤児とならずに、少年が無事親と再会できたことはたしかである。長屋の紳士たちもそれとなく助けたことになるのであろう。

『日本の悲劇』は、戦争未亡人(望月優子)が、幼い姉(桂木洋子)と弟(田浦正巳)を親戚に預けて闇屋をし、さらに熱海であろうとおもわれるが料理屋で中居をしつつ酔客の相手もして子供を育てるのである。子供を育てるため体を許したこともあり、子供だけが自分の生き方を認めてくれる存在と思っているが、子供は子供で、母のいない生活で母には言えない苦労をしていた。いつしか母と子供の間に世の中を見る目が違っていた。

医科大に通わせてもらった弟は、自分では到底できない開業医の養子になることにする。姉はこの母の娘である以上普通の結婚などできないと判断し、自分の過去からの逃避もあり妻子ある英語塾の先生(上原謙)と駆け落ちをしてしまう。

いづれ、子供たちが立派に社会人となり、母の苦労をねぎらってもらえると思っていた母は、さらなるお金を手にしようと相場に手をだし失敗し、電車に飛び込んでしまう。

映画の最初の場面で、流しの演歌師(佐田啓二)が『湯の町エレジー』を歌っている。料理屋の二階座敷に声をかける。そのとき呼んでくれたのがこの母であった。そしてつらいことがあったとき、自分のためだけに『湯の町エレジー』を歌ってくれといい、お母さんを大事にしなさいといってお金を渡してくれる。

もう一人短気な板前がいて、母はこの板前(高橋貞二)にも意見する。板前は反発するが、この母がどんなに苦労して子供の成長を楽しみにしていたか知っているので、この母が亡くなったと知ると演歌師に『湯の町エレジー』を歌わせ、、しみじみといい人だったと語りあうのである。肉親ではなく他人に母は偲んでもらうのである。この映画では三人の思いのつながる『湯の町エレジー』であるが、それぞれの聞く情感はまた別のところにある。

このあたりが長屋という一つの共同体にいる人々と流れ者同士として情を交わすのとは違う趣である。真ん中にのぞきからくりの口上を長くもってきた小津監督。始め、中、最後と『湯の町エレジー』をもってきた木下監督。それぞれの構成上の計算がうかがえる。

話しはそれるが、そういえば小津監督と木下監督はお二人で、佐田啓二さんの結婚式で仲人をされている。

さてさて築地川であるが、今その姿を見れるのは、浜離宮恩賜庭の大手門口にかかる大手門橋から東京湾に流れる姿である。これが築地川とは知らなかったので見に行った。なるほどである。東京湾に出る手前に水上バス発着所がある。水上バスに乘るのもいいな。

 

浜離宮恩賜庭園は菜の花が咲いていた。

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