2000年という事は15年前ということになるが、新橋演舞場で『阿修羅城の瞳』を観ている。記憶に残っているのは、染五郎さんの動きがやはり一番綺麗であったことである。他の出演者は敬称略で、富田靖子、古田新太、江波杏子、加納幸和、平田満、森奈みはる、渡辺いっけい、橋本じゅん・・・。話の入り組んだ芝居で、粗筋を言えといわれると説明がつかず、ただ感覚的には面白い世界であった。その後、DVDのレンタルショップで 映画版『阿修羅城の瞳』があるのを見ていたが、見たいとは思わなかった。ところが明治座の五月歌舞伎を観たら、なぜか見たくなり借りたのである。
こういう世界であったのかと映画だと筋を捉えやすくよくわかった。科白も面白い。舞台と映画の設定は多少違っていると思う。舞台の場合、掴めていて掴めないその空間が魅力の一つでもある。そもそもこの芝居は1987年に<劇団☆新感線>で初演され封印されていたらしい。2003年にも、染五郎さん以外のほかのメンバーを入れ替えて再演している。作者は中島かずきさんで演出はいのうえひでのりさんである。芝居のほうは、劇中歌も入ったように思う。映像で表現出来ない魔の妖しさを歌で観客をいざなったような気がする。
映画のほうは、江戸時代に突然、人の世界に<鬼>が出現し、<人>と<鬼>との死闘が始まる。<鬼>を撲滅させるための組織に、鬼殺しとして恐れられる病葉出門(わくらばいずも)がいた。しかし彼は5年前に少女を殺し、今は四世鶴屋南北一座の役者となっている。芝居の舞台や稽古場面が上手く使われ引き付けられ、病葉出門は歌舞伎役者市川染五郎さんであるゆえに出来る役柄である。<鬼>は、鬼の王でもある<阿修羅>の出現を待っている。<阿修羅>はどういう形で現れるのか。病葉はつばき(宮沢りえ)という美しい娘に出会い縁を感じとる。病葉は、少女・つばき・阿修羅の関係が次第に判明していきながらも、現世には帰れない魔界への橋を渡っていく。つばきとの約束を果たすために。
四世鶴屋南北(小日向文世)は病葉に伝える。おまえとつばきのことは芝居として後世に残すからと。最終的には、病葉とつばきの男と女の話のように思えるが、ここに出てくる四世鶴屋南北さんもまた、芝居という世界で<阿修羅>と一騎打ちを果たすべく<芝居の阿修羅>に取りつかれた人である。
その<芝居の阿修羅>は今どこかの劇場に出現していて、役者さんと一騎打ちをしているかもしれない。現実なのか魔界なのか。もしかして、あなたは今夜、魔界の阿修羅城の瞳に出会うかもしれない。
などと時空を飛んで想像力を喚起してくれる。
監督・滝田洋二郎/原作・中島かずき/脚本・戸田山雅司、川口晴/撮影・柳島克己/出演・市川染五郎、宮沢りえ、樋口可南子、渡部篤郎、小日向文世、内藤剛志