映画館「銀座シネパトス」有終の美 (7) 「セクシー地帯」

セクシー地帯(ライン)」(1961年)

監督・脚本・石井輝男/出演・吉田輝雄、三原葉子、三条魔子、池内淳子、細川俊夫

映画名と映画の面白さのギャップに可笑しさを感じてしまう。川本三郎さんは「ニューヨーク・ロケで作られた犯罪映画の秀作、ジュールス・ダッシン監督の『裸の町』(1948年)を思いださせる。」と書かれているが、その映画は見ていないので何ともいえないが、フランスのサスペンス映画と言っても良いような隠し撮りの楽しさがある。服部時計店の時計塔の時間表示を映しつつ、銀座の夜の中を動く俳優さん達と一般人の動き、街の明かり、ショウウインドウの光など白黒のよさも含め見所満載である。サスペンスなので捜したり、逃げたりの場面が、通行している人達が不思議に振り返ったり、立ち止まったりしてドキュメント風で臨場感があり、当時の銀座の雰囲気がよく解かる。

恋人(三条魔子)が殺され、その殺人犯に仕立て上げられた男(吉田輝雄)が、女スリ(三原葉子)の助けを借りて、コールガールの組織を捜し出し、警察に捕らえさせるのである。女スリの三原葉子さんが演技してるかどうか判らない自然体の明るい小悪魔さんで、後に時代が要求する作られた小悪魔的個性の女優さんが出てきたが、三原さんのような女優さんがいた事を知ったのは収穫である。彼女はちゃかりどんどん掏って、事件の糸口を掴んでゆく。彼女がそもそも男が上司から預かった物を掏り、それがコールガール組織の会員証だったことが発端なのである。彼女は偶然にも、組織のボスのお金を掏り、組織のアジトに潜入することになる。男もそのアジトを捜し出し二人の素性がばれてしまい、いよいよ殺されるという時、彼女は、いくら地下室といっても音は響くからもっと人のいない時間にしたほうが良いと殺されるほうが提案し、それもそうだと納得させてしまう。ばかばかしいようだが三原さんのテンポに皆、見る側も納得させられてしまう。その時、ボスのポッケトから爪切りを失敬し、それに付いている小さなナイフで縛られた紐を切るのである。制限時間は午前1時半。服部時計店の時計が刻々時間を知らせる。

サスペンスであるから何かが起こるわけで、その爪切りを吉田さんは受け取りそこねて落としてしまう。三原さんは、不器用ねとなじりつつもそれを解決する。さて脱出しようとするとドアには錠前が。彼女は、父が錠前空け屋だったと髪にさしたピンで挑戦し始める。男はもしここで死んでも君のような人と一緒で悔いは無いという。石井監督の脚本のスピーディーさでもあるが、三原さんのキャラは男にそう言わせる吸引力がある。無事逃げ出したところが工事現場。川本三郎さんの力を借りれば「ビルから出ると、目の前は、銀座と新橋のあいだを流れていた汐留川。ちょうど高速道路を作るために工事中で、二人は工事現場のあいだを逃げる。」とある。見そこねたが西洋の古城のような形の映画館「全線座」も映ったらしい。吉田さんと三条さんが築地川をボートに乗りデートする場面ではこの映画館キャッチできた。

「全線座」。おしゃれな名前ではないなと思ったら、昭和6年に公開されたソ連映画、エイゼンシュテイン監督の農村改革を描いた「全線」から付けられたそうである。(「銀幕の東京」川本三郎著) なるほど。

コールガールとして若き池内淳子さんも出てくる。やはり美しい。会社員である男・吉田さんは三原さんにも池内さんにも知られざる世界を案内してもらう事となる。

三原さんが、アジトから飛ばしたSOSの紙飛行機が、彼女を知っている刑事(細川俊夫)に偶然発見され二人は助かるのである。偶然過ぎるが、それが気にならないテンポと洒落と当時の風景がある。サスペンスに引きつけられながら当時の銀座にタイムスリップしているような魅力ある映画である。

追記: 川本三郎さんの本から銀座を探していたが、浅草も出てくるのである。まだ調べていない。

追記2: 『セクシー地帯(ライン)』観直すことができた。「全線座」確認できた。建物に「ホール全線座」とあり、屋上に「ZENSENZA」とある。(現在・銀座国際ホテル)

浅草の場面は、池内さんがエンコは私の古巣として吉田さんを案内する。六区で、夜なので二人の後ろに新世界の五重塔を模した塔が明々と映る。そして浅草日活の前を進む。広告には『大草原の渡り鳥』が。『堂堂たる人生』も同年である。

『昭和浅草映画地図』(中村実男著)には、セキネ(洋菓子)とあるが看板の「ネ」だけが映り洋菓子屋さんらしい。現在はと調べたら、同じ位置のようにおもえるが、セキネはシュウマイと肉まんのお店になっており確定できない。その他、すしや通り、新仲見世が映る。

銀座で、三原さんが吉田さんを追いかける場面で、路地の飲食店に「お多幸」の提灯が映る。日本橋のお多幸さんには行ったことがあるので調べたら、日本橋の前は銀座5丁目にあったということであり、その時のお店であろう。ただ、のれん分けもしていて違う経営のお多幸さんもあることを知る。

映画のタイトルが斬新で、外国雑誌の写真を切り張りして、間にキャストや出演者の名前を出している。夜の銀座、浅草の様子など、やはり魅了される映像の多い映画である。(撮影・須藤登)

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