志の輔さんの『牡丹燈籠』

『牡丹燈籠』は大変ややこしい話である。歌舞伎でも観た事があるが、カランコロンと美しい娘お露さんと乳母のお米さんが牡丹燈籠をもって恋しい恋いし新三郎さんに会いに来るということがすぐ目に浮かぶ。ところがこの話は敵討ちの話でもありながら、怪談話として一番印象的でゾクゾクする部分を話されることが多い。と同時に長すぎて1、2時間で話せるような内容ではないのである。それを、志の輔さんは2時間半ほどでやってしまおうという企画である。行ってみて初めて知ったのであるが。

始めに『牡丹燈籠』の全てをお客様に判ってもらう事を説明され、その複雑な人間関係を先ずおおきなボードと磁石の付いた名前札で説明に入った。それをここで説明することは出来ないが、よく理解出来た。『塩原多助一代記』に出てくるようなイヤーな継母も出てくる。圓朝さんはこういうタイプの女性に会った事があるのであろうかと考えてしまう。志の輔さんは圓朝全集でこの『牡丹燈籠』を読んだとき、聴きなれているお露さんやお米さんなどの名前が幾ら立っても出てこないのに驚いたそうであるが、そうであると聴いているので、こちらの方はなるほどと思って志の輔さんの解り易い講義を受ける。頭の中で複雑な人間関係が整理されていく。今でもボードの名札が浮かぶのであるからなかなかの工夫である。志の輔さんの出演されているテレビ番組のスタッフの力ということであるが事実のほどは解らない。ここまでは一人の男の仇討に到る経緯であるが、その仇討の相手は討たれる事を覚悟している。ところが違う人間に理不尽にも殺されてしまい、その男は、さらなる仇討に向かうのである。

ここで休憩となり、その前に休憩のロビーの様子も再現する。「<これから話にはいるのよね。あなた聴いていく。あれだけ説明されたんだから聴いていったほうがいいんじゃない。そうお、あなたが聴いていくなら、私も聴いていこうかしら。>などという会話がこれからロービーで交わされることでしょう。」そういう会話はありませんでした。今の登場人物がどう話と繋がるか楽しみであった。90分の長丁場である。実際にはもう少し時間がかかったが。

話のほうは、お露さんと新三郎さんの出会いから始まる。お露さんは会えない新三郎さんを恋焦がれて死んでしまうのである。『四谷怪談』のお岩さんとここが違うのである。<恋しい>と<恨めしい>は。なるほどと思った。ここからは歌舞伎でも観ていながら忘れていた部分が蘇ってきた。そうだ、そうだったんだよなあ。お蔭さまで『牡丹燈籠』の全容が判明しました。

志の輔さんの目的はそこにあると理解しました。それが判ると、『牡丹燈籠』のどの部分の話を聴いたとしても、その噺家さんの語り口の違いが分かるとおもいます。今度は、話だけではなく、噺家さんを味わう事ができます。そんなわけで、後日、圓生さんの『牡丹燈籠』のテープを聞きました。「栗橋宿」と「関口屋のゆすり」です。面白い。話の中のこの場面だなと思うから圓生さんの上手さもであるが、どう圓生さんがその場面を現したいかが微力ながら分かるのである。すご~い!さらに有料放送で放映された志の輔さんの『牡丹燈籠』を友人に頼んで録画してもらっていたのである。実は忘れていたのであるが、他のものを探していて発見。すご~い!すごすぎる!しっかり聴き直しました。

これで『牡丹燈篭』どの部分が出てきても完璧です。ただし時間は強いですからね。忘却とは忘れ去ることなり。こういう場合も<恋しい>でいきます。

 

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