『三千両初春駒曳』から映画『家光と彦左』

『三千両初春駒引』の幕に美しく飾られた白馬がうつし出され初春らしい華やかさであった。馬の鞍がきらきら輝き席につくと楽しい芝居が観れそうで明るい気分にしてくれる。素敵な趣向である。

<釣天井>で思い浮かべたのが、映画『家光と彦左』である。「宇都宮釣天井事件」という史実的にははっきりしない話があり、これは、二代将軍秀忠を宇都宮城主本田正純が釣天井で暗殺しようとしたというものである。『三千両初春駒曳』でもその話を導入して勝重が三法師丸を暗殺するため釣天井をつくるのである。歌舞伎の釣天井は、釣った天井の上に大きな石が幾つか乗っており、天井が床に落ちても、そこに役者さんが隠れるような工夫になっていて、人が床に潰されてしまう形となった。

映画『家光と彦左』は、三代将軍を決める時、長男の千代松(家光)を大久保彦左衛門が押し、次男の国松を松平伊豆守信綱が押す。将軍秀忠は彦左衛門の長男が継ぐのが順当の意見に従い、家光を三代将軍にする。そこから家光と彦左の<じい><わこ>の熱い関係が生まれるのである。彦左は老体となり生きがいを無くす。それを見た天海僧正が時には暴君となるのも必要ですと家光に提言する。家光は彦左が飛んできそうなことをしでかし、彦左は張り切って家光に意見すべく登城してくる。家光は彦左の花道として、日光東照宮参詣の先供を命じる。彦左は三千石の身分の自分がと涙を流し任務に励むのである。途中、本多正純の宇都宮城に寄りそこでの宴の席が突然、入口、窓など全て閉じられる。何事かと尋ねる家光に正純は自分は秀長(国松)を将軍にと仕えていたから、ここで家光には死んで貰うという。そして釣天井が下がってくるのである。主君正純の考えに一度は同意した家来の川村靭負は慌てることなくそれを受け入れようとする家光を、隠し通路から逃がし自分は正純の家来として死するのである。

家光を窮地に立たせてしまった彦左は切腹の覚悟であったが、家光は彦左の気持ちを察し、勝手に死ぬなよと言葉をかけるのである。

あらすじを読むと娯楽時代劇の定番であるが、家光が長谷川一夫さんで彦左が古川緑波さんである。天海僧正の意見を受け入れ家光は芝居をする。遊興にふけり白拍子と連れ舞いをする長谷川一夫さん。お手の内である。ところがその間に分け入るロッパさんの動きのよさ。老人の形で危なっかしさを見せつつ踊りのすき間を上手く動くのである。家光が芝居をしていると彦左は気が付き憤慨するが、天海に家光の心を受け入れなさいと言われ芝居に芝居する。その辺のあたりも二人の役者さんの見せ場である。長谷川一夫さんは川村靭負との二役で船弁慶も舞う。そしてもう一つの見どころは16歳の藤間紫さんが出ており、静御前を短時間であるが舞う形がいいのである。長谷川さんが褒めたというのでこの映像を見て確かめられ納得した。

1941年の東宝作品で、戦の馬の場面、釣天井が下がる屋台崩しや、建物の爆破など、東宝の技術人の力がわかる。

監督・マキノ正博/脚本・小国英雄。

筝曲の宮城道雄さんと按舞に藤間勘十郎さんの名前もある。家光と彦左の互いを思う気持ちを軸に、名君を返上しての振舞という形で歌舞音曲も入れ、世継ぎ問題からくる逆臣の手の込んだ企ても見せ、娯楽時代劇でありながら見せてくれる映画である。

 

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