歌舞伎座六月 『お祭り』 『春霞歌舞伎草紙』 

『お祭り』 やはりこれから書くことにする。仁左衛門さんの『お祭り』での歌舞伎座復帰は2回目である。兎にも角にも復帰され何よりである。始終ホロ酔いの心持よさそうな笑顔で踊られた。からみの若い衆は千之助さんである。大きくなられた。以前テレビで、仁左衛門さんが何か舞台のことで注意されたらしく悔し涙を見せた。でも仁左衛門さんの言っていることは間違ってはいない、正しいと言われていたのを思い出す。事実であるから一層悔しかったのであろう。これから、身体もどんどん成長し、長くなる手足のやり場に困るかもしれない。同じにやっても形がとれなくなることもあるであろう。仁左衛門さんの粋な鳶頭が、絡む若い衆をを軽くいなし、楽しんでいる様子がほのぼのとしていて、お酒の酔い具合に色気があった。千之助さんは仁左衛門さんにからみつつ、どうしてあんなに軽く踊れるのだろうと思われているかもしれない。三津五郎さんに続いて本当にお帰りなさいである。

『春霞歌舞伎草紙(はるがすみかぶきぞうし)』 出雲の阿国(時蔵)の一行が京に着き、華やかに踊る。出雲の阿国の恋人である名古屋山三(菊之助)が現れ楽しかった日々を懐かしみ、山三は阿国に新しい歌舞伎踊りが見たいという。この作は長谷川時雨さんで、山三は現身ではなく霊である。阿国と共に新しい趣向の歌舞を創りあげた楽しさを求め、さらに霊になってまでもそれを探す山三。時雨さんは山三の出現をこのように設定したのである。時蔵さんの阿国は貫禄充分で、若衆に亀寿さん、歌昇さん、萬太郎さん、種之助さん、隼人さん、女歌舞伎に、右近(尾上)さん、米吉さん、廣松さん等を引き連れている。若手の役者さんの踊りにも次第にそれぞれの個性が出てきはじめている。山三が出現したくなる艶やかな舞台である。

長谷川時雨さんは大変魅力的な女性である。夫で流行作家の三上 於菟吉(みかみ おときち)の援助をうけ、「女人芸術」を発行する。その際には、平塚らいてう、岡田八千代、柳原白蓮、神近市子、平林たい子、山川菊枝等多数が協力する。この雑誌から育った人も多く、林芙美子、円地文子、太田洋子、佐多稲子、尾崎翠などがいる。さらに与謝野晶子、岡本かの子、長谷川かな女、山本安英等が執筆している。女性でこれほど、様々な方向性の女性達に執筆の発表の場所を提供した人は他にいない。明治末から、大正初期には、歌舞伎の脚本を書き、六代目菊五郎等と舞踏の発表会を催している。少し探ってみると、スケールの大きな女性である。

昨年の11月には、三津五郎さんと菊之助さんが『野崎村』と『江島生島』をやる予定であったが、三津五郎さんが休演となり、菊之助さんが座長で頑張られた。この時の『江島生島』も長谷川時雨の作であった。江島(尾上右近)と生島(菊之助)の逢瀬と別れ、島に流された生島は気が触れて江島を想い彷徨うのである。菊之助さんがリードされたが、右近さんにとっては大役で江島の位の大きさに届かなかった。

機会があれば、他の長谷川時雨さんの作品も上演して欲しいものである。

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