映画『ゆずり葉の頃』

『ゆずり葉の頃』は、東京ではまだ公開前である。5月23日(土)~6月19日(金)岩波ホールで上映される。

映画館で手にしたチラシに、八千草薫さんと仲代達矢さんが向き合って写っており、その間に <中みね子監督デビュー作> とある。何んとこの監督さんは、岡本喜八監督夫人の岡本みね子さんである。この映画を撮影時は76歳ということで、素晴らしい監督デビューである。

八千草薫さんは、谷口千吉監督夫人でもあり、岡本喜八監督は、谷口監督のデビュー作『銀嶺の果て』でサード助監督をを務めいる。『銀嶺の果て』は原作・脚本が黒澤明監督で、三船敏郎さんのデビュー作品でもある。銀行強盗犯人である志村喬さんと三船敏郎さんが山小屋に逃げ込む。人物像、山岳映像が見る者を引きつけ雪山でのアクションはワクワクしながら見た。この時代にこんな山岳映像を撮っていたのだと驚いた。演じる方もスタッフも大変であったであろう。雄大な自然に負けない、三船さんの野性味と志村さんの情が絵になっている。

『ゆずり葉の頃』は、一枚の絵が導く過ぎし日への旅のようである。岡本喜八監督は亡くなられる前、次の映画として『幻燈辻馬車』の脚本も書かれていたが実現しなかったわけで、その礎を受けられてのことか、新たに岡本みね子さんが、中みね子監督として脚本も担当されて映画監督デビューされたのである。

岡本監督の映画『ブルークリスマス』は、SF的でありながら秀作である。この映画には岡本みね子さんも出演されている。仲代さん演じる国営放送局報道部員の奥さん役で、フランス語の習得に熱中していて、食事をしている間もヘッドホンをかけたままであるという一ひねりされた奥さんである。八千草さんも異端の科学者とされてしまう妻役で出演されている。『ブルークリスマス』はUFOを目撃してその光を浴びた人の血液が青に変わってしまい、秘密裡に権力によってあぶりだされ消滅させられてしまう話しである。SFでありながら、映画は日常的な流れの中で描かれていて、もし特殊であると規定されたら隠ぺいされ闇から闇へ葬りさられてしまう権力の非情さを感じさせる。

前半はテレビ界での話しかと思ったら、その放送界も暗躍する権力を修正する力はなく、後半は押しつぶされていく若者が主軸となっていく。見ていて話しの構成展開が岡本監督と違うなと感じていたら、エンディングクレジットに脚本・倉本聰さんの名前があり、やはり岡本監督ではなかったと納得した。若い二人が田舎の列車の停車場で途中下車をしてホームで話しをする場面は、二人の前を何本か列車が通りすぎ、時間が経過したことを表し、二人が深刻な状況であることがわかる。そのあたりを列車の動きで表すあたりが岡本監督の<動>である。この若者が勝野洋さんと竹下景子さんで、竹下さんは、『ゆずり葉の頃』にも出演されている。(「ブルークリスマス」作詞・阿久悠、作曲・佐藤勝、歌・Char)

『ゆずり葉の頃』の音楽は、山下洋輔さんで、山下さんのソロピアノが入るらしい。そして、画家の宮廻正明さんがこの映画のために、絵を提供されている。

『ゆずり葉の頃』の撮影・瀬川龍さんは、『銀嶺の果て』の撮影・瀬川順一さんの息子さんである。

ゆずり葉・・・若い葉が芽吹いた後、役目を終え、譲るように落葉することから、親が子を育てるたとえになぞられてきた。縁起ものとされ、お正月のお飾りなどにも使われている

監督・脚本・中みね子/撮影・瀬川龍/音楽・山下洋輔/出演・八千草薫、風間トオル、岸部一徳、竹下景子、六平直政、嶋田久作、本田博太郎、仲代達矢/劇中画・宮廻正明

 

 

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