加藤健一事務所 『ペリクリーズ』

カトケン・シェイクスピア劇場『ペリクリーズ』とある。

加藤健一事務所『ブロードウェイから45秒』 でのお店に貼られていたポスターが、今回公演の『ペリクリーズ』である。前回公演の時に訳本が売られていたので購入。観劇前日に読む。シェイクスピアと聞いただけで身構え、覚悟して読み始めたが、言葉に惑わされずに読めた。

最初は、ある国の王の近親相姦の話が出てきて、悩み多き王子が現れると思いきや、この若き領主は邪淫の父娘をあっさり捨て、争いを避け、賢き臣下の意見に耳を傾け、自国から放浪の旅へと船出するのである。このツロの若き領主が<ペリクリーズ>である。

冒険譚であり、家族愛の話でもある。筋が解り、修飾語や例えの長い台詞は少ないので、ハムレットのように悩む必要もないであろう。この話がどう展開し、どう役者さんたちは演じるのか、興味はそこに尽きる。

船で旅立ったペリクリーズは、ある国で姫を娶り、ツルへと向かうが、船は嵐に合い妻は娘を産んですぐに亡くなってしまう。乳飲み子を連れて船出するわけにもいかず、ある国の領主に娘を預ける。この娘が美しく清い心の持ち主として成長するが、それが災いし運命に翻弄される。しかし、娘は回りの人間を清めつつ自分の人生をつき進み、目出度く父と再会するのである。

ところどころで周りの状況を説明する語り部の話によると、幾つかの国がでてくるが、人の道に背いた領主は、最終的には、領民によって見放されて滅びていったようである。それは、ペリクリーズが訪ねた国である。舞台でペリクリーズは幾つかの国を訪れるわけである。それも船に乗って。

舞台措置で活躍したのが、大きな三角の布である。それが、▽ となり △ となり、役者さんたちが上手く作動して場の変化をつけていくのである。

一役なのは、ペリクリーズの加藤健一さんだけで、後の役者さんは何役かの掛け持ちである。女性人たちに限って言えば、お化粧のためもあり、女郎屋のおかみさんが那須佐代子さんとは最後まで気がつかなかった。パンフレットを見て気がついた。女性は3人しか出ていないのに見抜けないでいた。付き人役とはあまりにも違う役である。加藤忍さんは、ペリクリーズとの出会いを愛らしく演じ、その娘役は静かに嘆きつつも相手を諭しつつ突き進んでゆく。矢代朝子さんは、悪と女神の両極端を、どちらも、不可思議な信念を醸し出していた。

男性陣は、幾つかの国の、太守や、臣下や、漁師や、騎士やなどとなり、ペリクリーズがその国へたどり着いたことを表し、ペリクリーズの旅を想像させ、航海の大変さへの想像をも助ける。

紙に印刷されていたものが、このように肉付けされ、舞台化されるのかと、その立体化された舞台空間を楽しんだ。主なる役の本筋をとらえ、違う場面では、それとは違う空気の流れを起こす。そして、ペリクリーズの波乱に満ち人生とその家族愛の成就を完結するために作り上げていくのである。その中心として、加藤さんのペリクリーズは力強く進み絶望へと至り、娘に救い出される。

シェイクスピアは苦手なのである。シェイクスピアとはなんぞやというところへは行けそううにもない。めでたしめでたしである。

訳・小田島雄志/演出・鵜山仁/出演・加藤健一、山崎清介、畑中洋、福井喜一、加藤義宗、土屋良太、坂本岳大、田代隆秀、加藤忍、那須佐代子、矢代朝子

 

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