新派 『葛西橋』 (1)

三越劇場での新派名作撰『葛西橋』『舞踏 小春狂言』。歌舞伎の俳優参加の新派名作発掘である。

葛西橋』はかつて東京で一番長い木の橋であったらしい。地図を見ると江東区清洲橋通りの荒川近くに旧葛西橋とあり橋はない。、旧葛西橋バス停はかつて葛西橋バス停だったのかもしれない。今の葛西橋バス停は現在の葛西橋の近くで現葛西橋はコンクリートの大橋で新派の雰囲気ではない。新派の場合難しいのは、かつての名作の継承を庶民の生活音と香りも残さなければならないことであり、その想像力を観客の中に呼びもどさ無ければならないことである。すぐそこにあるようで町はどんどん変わっているので江戸などにポーンと飛ぶより難しい事がある。

作・北條秀司 / 演出・成瀬芳一

おぎん・菊枝(おぎんの妹)・美也子 (三役)・市川春猿/友次郎・市川月乃助         お辰・市川笑三郎

葛西橋の近くに友次郎と菊枝が所帯を持つ。姉のおぎんは洲崎の遊郭の娼妓である。友次郎とおぎん深い仲であるが、菊枝が友次郎に惚れている事を知ったおぎんは、自由にならぬ自分の立場と二人の幸せを思い身をひき二人を添わせるのである。ところが友次郎は競馬と株で会社のお金を使い込む。さらにフルーツパーラーののマダム美也子と結婚の約束までしていた。菊枝が行方不明となり、菊枝が働いていた髪結い店のお辰が親身になりさがす。菊枝は身体を売って友次郎を助けようとしていた。菊枝にとってショックだったのは美也子が姉のおぎんに似ていたことである。警察の手もまわり友次郎は樺太に逃げることにする。葛西橋の上から友次郎が乗る船を見送るおぎんとお辰たち。その船に菊枝も乗っていた。思わずおぎんは叫ぶ。「畜生・・・・菊枝の畜生・・・・」

おぎんと菊枝の姉妹が翻弄される男友次郎。月乃助さんは長身さを使ってなんとか駄目さ加減を見せずにすまそうとする男の矛盾をだしていた。菊枝という純な娘が居ることによっておぎん友次郎はバランスを崩していくのであるが、最後に、菊枝が落ちて行くのを見ておぎんがだったら最初から菊枝に譲らなかったというのは、おぎんの菊枝を利用した自分の夢の崩壊であり、菊枝にしてみれば代理にされた反逆でもある。その間に入って落ちていく男のどうしょうもなさ。というふうに解釈させてはいけないのが新派なのかもしれない。ただこれからの新派は、そういう解釈もありえるということを意識しつつ闘っていかなければならない。かつての見せる芝居には中も周りも想像する環境が変わってきている。

観る側は、やはり観ないことにはどんな作品であったのかという事が解からないのであるから、大変でも堀り起こしていって欲しい。そこに新たな芽が出るかどうかはすぐには解からないものである。 

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