柿葺落四月大歌舞伎 (三)

【第二部】 一、弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)

「白浪五人男」。<白浪>とは盗賊のことで、五人の盗賊の男と云う事になる。<白浪>がなぜ盗賊なのか、マジメさんに見習い辞書で調べると、《中国の白波(はくは)の谷にいた盗賊「白波賊」から》とある。では五人とは、日本駄右衛門(吉右衛門)・弁天小僧菊之助(菊五郎)・忠信利平(三津五郎)・赤星十三郎(時蔵)・南郷力丸(左團次)である。

「弁天娘女男白浪」は弁天小僧菊之助と南郷力丸と日本駄右衛門の三人の白浪が登場する <雪下浜松屋見世先の場>から始まる。歌舞伎は江戸時代の話を鎌倉時代にしたり江戸での話を鎌倉に移したりと当時の幕府の検閲を逃れる工夫をしている。この話も江戸であるが鎌倉にしており、現在でも鎌倉散策で<雪ノ下>の地名に会える。よくぞ残しておいてくれたと嬉しくなる。

白浪は浜松屋の財を取ろうと企んでいる。弁天小僧は武家の娘に南郷はその供侍に化け、万引きの疑いをかけられるように仕組み、実際はやっていないため難癖をつけ金をせびるが、駄右衛門が弁天小僧を男と見破り浜松屋の信用を得る。この弁天小僧の女から男に変わるところが見所で、作者・河竹黙阿弥の七五調の聴かせどころである。菊五郎さんの弁天小僧菊之助は手順から台詞まで手の内なので、こちらはゆったりと楽しむだけである。歌舞伎座はしばらくは三部制でいくのであろうか。二部制だと三演目は入るので一演目は舞踊をいれたりして気を抜く演目が入るが、今回は次の「将門」の舞踊劇も重いので、ベテランの演技を安心して観ていられるのは有り難い。全体像が分らないと駄右衛門の位置が分りづらいが、いつか話の全体像に出会えることがあり、そういう事であったのかと驚くのも楽しい。役者さんは部分的な場面だけでも全体像を頭に入れて演じているので、それを分って観ている人はあそこはさすがであるとなるのである。

<稲瀬川勢揃いの場>は白波五人男の晴れの場である。悪事がばれ追っ手がきているのであるから。捕らえられる前の男振りである。それぞれ生い立ちから語るので地名などもでてくるが 「人に情を掛川から金谷をかけて・・・」「鬘も島田に由比ガ浜・・・」「月の武蔵の江戸育ち・・・」など耳に心地よい言葉が並ぶ。

盗賊などのような悪人を格好よく描いているのも、歌舞伎ならではかもしれない。それは台詞であったり、衣裳であったり、スペクタルな大道具であったり、役者さんの芸の大きさであったりするわけである。

そのスペクタルな大道具の力が<極楽寺屋根上での場>での大捕り物であったり、<極楽寺山門の場>の山門の上<滑川土橋の場>の山門の上と下の橋との上下関係であったりする。役者さんだけではなく、新歌舞伎座ではどう展開するのかという舞台装置も披露する演目となり、安心させてくれたのである。

 

 

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