水木洋子 『北限の海女』

水木洋子さんの市民サポーターの教え通り、横浜の放送ライブラリーで、ラジオドラマ『北限の海女』を聴くことが出来た。力作である。映像ではないので音だけで、こちらの気持ちに添って映像を造りつつ聞くというのも迫力がある。

水木洋子邸に参考資料として、この作品の取材の様子を書いた一文、「磯焚火」がコピーされていて自由に持ってこれた。作品の登場人物について次のようにある。「一人は命綱を握る夫と娘たちと幸福に山の上に住み、貧しい下町に住む一人は、夫を北洋の海で失い、一人息子がまた同じ海へ出ていると言う七十八才の海女である。産気づくまで海で働き、自分一人で生み、産湯を自分の手でわかし、今でも海女として、腕も体力も絶対若い者に負けないというベテランで、上町の海女と下町のこの海女は春のコンクールにトップを競い合っていた。」

この山町の海女が賀原夏子さんで声にこもるようなふくよかさがあり、下町の海女は原泉さんで独特の凄味のあるしゃべり方、旅人の私は荒木道子さんで若々しい都会人の趣きを出しており、二人の海女の方言と標準語のトーンだけ聴いていても、その生活している風土の違いがよく伝わってくる。目で脚本を読んでいたので、サポーターのかたが、さすが出演者の方言がいいですが、分かりずらいかもしれませんとの言葉も危惧に終わった。この声の澄んだ都会の私は自分の標準語で生き方を見つけて行くであろう。水木さんは出演者を選ばれたのであろうか。映画『にっぽんのお婆ちゃん』にしろ、よくその役者さんの特徴と役者さんの役どころを知っていて、上手く重ねてその作品にあてはめたり、新たな挑戦をさせる。

テレビドラマ『なぎ』(漢字で書かれているがさんずいに嵐と書き水木さんの造語である)『こぎとゆかり』の二本も見ることができた。『なぎ』は信州の洪水によるがけ崩れで両親と兄弟を亡くした少年が無くなった村を訪ねると母方の祖父とその仲間の老夫婦が傾いた家に居残っていた。少年はその温もりに安堵するが、祖父と友人の老人は、放送局で二人の持論の天災ではなく人災であるという説を存分に話してくれと連れ出され精神科の病院に収容されてしまう。それでも少年は山に向かって、暴れないで静かにしてくれよ、暴れない山が好きなのだからと語りかけるのである。

『こぎとゆかり』は、おばちゃんの北林谷栄さんと孫の大原麗子さんのコンビである。おばちゃんは、認知症が出てきている。それとゆかりは日々闘っている。おばちゃんのとんちんかんさとそれに翻弄されつつも、自分の位置を見失わずに、自分の青春を失わせないでと望む葛藤を大原さんは勝気さと情の間で揺れる感情を上手くだしている。文通している青年との交流と別れ。それが、お婆ちゃんと同道する明治村で展開される。その場所設定もドラマを面白くしている。テーマも解決されない今を映していて古くないのである。

その他、水木洋子さんのテレビドラマとしては『竜馬がゆく第16回』『出会い』『灯の橋』『女が職場を去る日』『五月の肌着』がみれる。

 

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