『仮名手本忠臣蔵』(歌舞伎座12月) (1)

今回は11月で筋は書いたように思うので、印象に残ったところをピックアップしていこうと思う。

先ずは台詞などを勝手に繋いだ部分の訂正から。『仮名手本忠臣蔵』 (歌舞伎座11月) (2)で<塩冶判官はやっと心中を吐露出来る人物が現れ苦しさの中から、由良之助に伝える。「憎っくきは加古川本蔵・・・」そこで由良之助はその言葉を全部まで言わせない。この場に及んでそのことは言われるなと止める。>と書いたが、塩冶判官が加古川本蔵に抱きかかえられ無念と思う気持ちを伝えるのは、上使の(切腹を言い渡しに来た使者)石堂右馬之丞と薬師寺次郎左衛門に対してであった。その後由良之助が登場し、仔細は聞いたであろうと由良之助に問いかけ無念さを表し、それ以上はと由良之助が止めるのであるが、加古川本蔵に対する気持ちもこの時伝えたと思い違いをしていたのである。しかし、塩冶判官の中にはそのことも伝えたいという想いはあったはずで、それら全てを受けての由良之助の得心と思う。そこのところも重なっての男と男の約束と受け取ったのである。

12月のほうは、塩冶が菊之助さんで由良之助が幸四郎さん。年齢差の違いもあってか、若い城主に対する経験を踏んだ家老の引き受け方に写った。役者さんの組み合わせによっても芝居の感じは違うものである。

菊之助さんは、おっとりとして、血気にはやる染五郎さんの若狭之助を抑える。そのおっとりが次第に師直の嫌がらせに持ちこたえられなくなる様を出し、力尽きて由良之助に託す。顔世御前の七之助さんはその儚さが、塩冶判官の死を一層無念で悲壮なものにした。その若い主人の無念さを幸四郎さんがグッと受け止める。

斧定九郎の獅童さんが役にはまっていた。雨に濡れた髪のしずくを払い、袂を絞り、財布のお金を数えようと足の位置が決まり、決まったなと見えたら財布の中の指がゆっくり動いている。このタイミングが良い。そして、鉄砲に撃たれて振り向き、口から血が垂れるのはと思ったと同時に膝上に口から血が滴り落ちてきた。動きを貯めていながら、こちらの見たい時間にスーと動いてくれるので目が離せない。動きとこちらの思いが一致する。姿、形といい満足、満足。

獅童さんのお母さんが亡くなられた。舞台の十一段目では動きの激しい小林平八郎役である。千穐楽まで怪我のないように努められてほしい。もう一人歌舞伎役者さんで亡くなられた方がおられる。坂東 三津之助さんである。みの虫さん時代に印象づけられたのであるが、目もとに特徴があり、少し前かがみで大勢の時でも捜すことが出来、いました!いました!と見つけるとなぜか安心できる方であった。  【 合掌 】

 

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