水木洋子のドラマと映画 (3)

水木さんの作品に石坂洋次郎原作の『丘は花ざかり』(1952年)がある。これは共作で、相手は『青い山脈』(1949年)で脚本家デビューをした、井手俊郎さんである。映画脚本では、水木さんも八住利雄さんと共作で『女の一生』で1949年の同年にデビューしている。井手さんとは『丘は花さかり』『夫婦』『愛情について』『にごりえ』の4本共作している。<男女の問題を扱うとき男の作家が加わる方が中庸を得る>とし、井手さんに関しては「珍しいほど女性について新しい鋭敏な理解者」と言われている。井手さんのほうは、原作を約7分の1のシナリオにした大変さと「ほとんど全部水木さんにおんぶして、どうやら出来上がった」といわれている。『青い山脈』は戦後の初の古い考え方を打破する青春映画と言えるもので、池部良さんと、杉葉子さんの学生としては少し大人過ぎるが、爽やかなフレッシュコンビである。

そのコンビともう少し大人のちょっと危ない関係を描いたのが『丘は花ざかり』である。この映画は市川市文学ミュージアムの貸出でその場で視聴できた。『青い山脈』で大人の色気で魅了した芸者役の小暮実千代さんが既婚の姉で杉さんが出版社勤務の妹役である。この二人の恋愛を軸に話は進む。

小暮さんは、息子のPTAの役員となりそこで上原謙さんに引き付けられる。この上原謙さんが好演である。キザでありそうで、キザまで足を踏み入れていないぎりぎりの線を保ち、女を魅惑的に誘う役どころである。本物の恋に発展しそうな雰囲気でありながら、小暮さんは家庭にもどるのである。『青い山脈』の<変しい、変しい>の手紙のアクセントと同じで、他の役員に、小暮さんと上原さんは見られたくない場所で会っているところを見られてしまう。、その役員から小暮さんの夫に手紙が届く。てっきり逢引の告げ口と思ったらそれは夫への碁のさそいであった。

杉葉子さんは奥さんを亡くした上司の山村聡さんを好きになってしまい、子供の世話などもし結婚を考えるが、山村さんはそういう気持ちはないとはっきり伝える。杉さんは落胆するが、杉さんに好意を持っている池部さんとのことを恋愛の範ちゅうに入れることとする。

小暮さんの家族と、杉さん池部さんが加わり、上原さんとの関係を清算し農場に住み込む高杉早苗さんのところへ遊びに行き、全て丸く治まり皆で笑顔でサイクリングとなるのである。バックには藤山一郎さんの歌う「丘は花ざかり」が軽やかに流れて目出度し目出度しである。大人のほんのり冒険的心ときめかす青春映画といったところである。主題歌としては「青い山脈」のほうが、やはりインパクトは強い。小暮さんと上原さんの不倫ものとなれば、当然「丘は花ざかり」の歌は挿入されないであろう。そこにもう一つの恋を組立て上手く収めている。<中庸>なのかもしれない。  監督・千葉泰樹 (「青い山脈」「丘は花ざかり」はともに 作詞・西條八十/作曲・服部良一)

上原謙さんは、木下恵介監督のデビュー作 『花咲く港』 (1943年・菊田一夫原作)で小沢栄太郎さんと兄弟を装ったペテン師役をやっている。おおごとになると思わなかったのに、小さな島全体の善良な住民を騙す事となり結果的には改心し島のために尽くす形となる。この役などは、『丘は花ざかり』後に演じたとしたらもっと面白味のある演じ方をされたと思う。1953年『妻』『夫婦』で毎日映画コンクールで主演男優賞を受賞されている。『夫婦』は水木洋子さんと井手俊郎さんの共作で成瀬己喜男監督、共演・杉葉子さんである。

 

 

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