坂のある町 「常陸太田」 (1)

水戸黄門でお馴染みの水戸光圀公が隠居後の10年を過ごした<西山荘(せいざんそう)>のある場所が、水戸からの水郡線常陸太田駅から歩けて、そこは城下町で坂の町である。旅行雑誌の常陸太田をコピーしていざ出陣。

水戸からの水郡線は途中の上菅谷(かみすがや)で常陸太田方面と郡山方面とに枝分れしている。そのため水戸から常陸太田行きなのであるが、郡山方面からくる列車との待ち合わせで上菅谷で15分列車は停まっていた。ローカル線の楽しさでもあるが、動きだす時になって、あれまあーホームに出て見れば良かったと後で気が付く。水戸から待ち時間もいれて1時間弱の乗車時間である。震災で被害にあったであろうが、屋根なども綺麗になり、ソーラーを設置している家があちらこちらに見える。畑の水のあるところは薄く氷が光っている。長閑である。

常陸太田駅に着くと隣接している観光案内にこちらの旅の目的を告げアドバイスをしてもらう。今、町の一角でお雛様を飾っていて道路からも見え、飾ってあるお店の中にも入って下さいとのこと。坂に面した町並みである。新たに解り易い地図をもらい歩き始める。大きな坂として七つあり<太田七坂>と呼ばれている。その第一の木崎坂を上がってゆく。広い道だが傾斜があるので道のすき間から見える建物がどんどん下に移動する。先ずは目指すのは下井戸坂で左手にそれと分るが、さらに進み杉本坂を目指す。

細い急な坂が左手に出現。表示がないのでその先に進むと立川醤油店があり、お雛様を飾ってある。お店の裏の母屋にも飾ってあり自由に入ってよい。入らせてもらい立派なお雛様たちを拝見する。帯の上に並べられたお人形もかわいらしい。外に出ると、<天狗党の刀傷あとがある>と書かれている。何処であろうともどると、ちょうど商店の奥さんが来られ「飾ってあるお雛様の後ろです」と案内して見せて下さった。鴨居の柱にもあり、そこは判らないように削られていた。天狗党が軍資金集めに来るという情報があり、住んでいる方達は避難して無事で、その頃は造り酒屋さんをしており、その酒樽が壊されて横の坂を川の様に流れたと。それが、杉本坂である。蔵造りの母屋は大火を免れ230年位たち、お店のほうも築180年はたっている。お店も天井に明り取りがあり、障子などもすてきである。震災前に補強していたので難を逃れたそうである。頂いたこのお店を紹介した新聞記事のコピーによると、先祖は東京の立川市周辺を治めていた豪族であったらしい。今のご主人は17代目とある。

お酒の川の話を聞いた後なので急な杉本坂を下るのもお酒に追いかけられるようで印象深い坂となる。途中に小さな山田神社がありその門柱に<杉本坂>と彫られてあった。<杉本坂>を下り下の道を進むと今度は右手に<十王坂>が現れる。この坂は綺麗に舗装され幅も広い。その坂を上り立川醤油店にもどる道すがら、震災で傷んだ網におおわれた郷土史料館分館があり、その隣にレンガ張りの郷土史料館の梅津会館がある。この町出身の梅津福次郎さんが北海道函館に渡り海産物問屋で成功し寄付し、昭和11年まで役場として、昭和35年まで市役所として活躍していた建物である。残念ながら震災のため史料館も現在は休館である。

この町の方々は、お雛まつりを通して震災よりももっと前から続いている町の歴史を一層大切に語られているように思えた。会う方会う方親切に教えて下さるのである。説明書きも丁寧で、満州から戦前送ったお雛様が行方不明となり、戦後届いたお雛様もあるのである。同時にお店の出来た年代も紹介していて古くからのお店が多いのである。この一帯は<鯨ヶ丘>といい、それは鯨の背のような町というところから命名されたようである。立川醤油店の一本向かえの通りの右手には、<板谷坂>が下がっていく。2本の通りに対し左手は<杉本坂>が右手は<板谷坂>が下っていて2本の通りは<鯨の背>なのである。この板谷坂も上から見ると美しい景観の坂で、前方に阿武隈連山が並び、昔はその下に田園が広がっていて、<眉美千石>と言われたと標識に書かれている。若い娘さんが写真を撮っているので旅行者かと尋ねたら「地元で住まいは少し離れていて、初めてゆっくり町を眺めているんです」と。灯台下暗しと言う事であろうか。

創業明治33年の大和田時計店ではお雛様と同時にに110年以上動き続けている大時計を見ることができる。ゼンマイ仕掛けの前の分銅式の時計である。中のは機械はスイス製で木彫りの外枠は日本で作られ、鳳凰と牡丹の模様である。創業当時から時を刻んできたのである。

さらに進むと<塙坂>があり、その坂を下ると<東坂>を斜めに上って行くことが出来る。右手に阿武隈連山を眺めつつ。

太田七坂 <木崎坂><下井戸坂><杉本坂><十王坂><板谷坂><塙坂><東坂>

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です