歌舞伎座 7月歌舞伎 『夏祭浪花鑑』 (1)

『夏祭浪花鑑』。 <お鯛茶屋><住吉鳥居前><三婦内><長町裏><団七内><同屋根裏>の通し狂言である。

団七九郎兵衛、一寸徳兵衛、釣舟三婦の大坂の男だて(侠客)を並べての世界である。その中でも、団七の男をたてる忠儀立てのため、舅を殺す場面は見せ場の見得も多く、上演回数も多いが、<お鯛茶屋>の上演は少ない。だがこの場で、三人が忠儀立てをする、主筋に当たる玉島磯之丞の状況と性格が解かり、徳兵衛の女房お辰が立てる女だてへの経緯も理解できるのである。

<お鯛茶屋>では、堺のお鯛茶屋で磯之丞(門之助)が傾城琴浦(尾上右近)と恋仲で入り浸っている。そこへ、団七の女房お梶(吉弥)が、乞食を雇い、親不孝をしてこんなに落ちぶれ非人になってしまったと泣かせる。磯之丞はその様子から我が身も同類と屋敷にもどることにする。このあたりで磯之丞の人間性の弱さがわかる。

堺の魚売りの団七は、人を傷つけ入牢しているが、堺から所払いとなり、大阪の<住吉鳥居前>で釈放される。そこには、悪辣な駕籠やから磯之丞を救い逃がした老侠客の釣船三婦(左團次)が迎えにきていて、団七に新しい衣服を渡し去る。団七が床屋で成りを整えている間、傾城琴浦が横恋慕の佐賀右衛門に絡まれているのを助ける。この時、罪人で髪も髭も伸び放題の団七が、見違えるほどのすっきりとした男っぷりで登場するのも見せ場である。きりっと締めた赤の細幅の博多帯が裏から表に返った明るい気分にさせる。琴浦を磯之丞のいる三婦の家に逃がすが、そこへ、佐賀右衛門につく一寸徳兵衛と争いになり、お梶が仲裁に入る。二人の間に立つお梶は、きりっとした侠客の女房である。徳兵衛は、先にお梶が雇った乞食で、実は、磯之丞が徳兵衛の主筋にあたることが判り、団七と徳兵衛は義兄弟となり、目出度く団七親子と徳兵衛は花道から去るのである。これで、団七九郎兵衛、一寸徳兵衛、釣舟三婦、三人の男だての関係がつながるのである。

<三婦内>では、磯之丞はその後、人を殺めてしまい、琴浦と二人三婦のところに匿われている。琴浦が若い女に目がいったと磯之丞をなじっている。外から中の様子を伺う怪しげな若い者がうろついて去る。三婦は、二人を表に出しては駄目だと女房のおつぎ(右之助)を叱り、二人は別部屋に入る。どうも磯之丞は優柔不断のところがある。そこへ、徳兵衛の女房のお辰(玉三郎)が訪ねてくる。如何にも侠客の女房といった粋さである。地味な着物と帯で、紅色の煙草入れを使う。煙管の灰を落とす時、一回は手ぬぐいで押さえ音を出さない様に叩き、二回目はポンと音をたてる。煙草入れに恋した娘のようにじーっと観て聴いてしまった。なるほど、女が二回の音は粗野すぎるし、手ぬぐいの当て方も粋である。

おつぎは、お辰に、ここでは何かと人目につくので磯之丞を預かって欲しと頼まれ承知する。しかし、三婦はそれは駄目だという。お辰はいったん引き受けたものを断られては夫の徳兵衛も男がたたないし、自分の女がたたないと理由を尋ねる。三婦は、お辰が若く美しすぎ間違いがあってはならないという。磯之丞を見ているとこの三婦の危惧がわかる。そこでお辰は自分の左頬に、火にのせてあった鉄棒を押し当てるのである。そしてその火傷を見せこれでどうかと、三婦ににじり寄る。言いずらい事を言い、下を向いていた三婦は「徳兵衛はいい女房をもった」と感嘆する。この、お辰と三婦の立て引きも形もよく、腹が心にある見せ場となった。

お辰が磯之丞を預かり花道を去るとき、女はここではなくと顔を指さし、ここじゃわいなと胸に手を当てる時の伊逹さは格別である。

三婦宅に琴浦を出せと若い者が入り込む。三婦は着物を着換え若い者を外へ連れ出す。女房のおつぎが自分の亭主の後姿を見て恰好良いとつぶやくが、三婦に老侠客の貫禄がある。そこへ、団七の姑の義平次(中車)が団七に頼まれ琴浦を向かえにきたとして、駕籠で連れ出してしまう。三婦、団七、徳兵衛の三人が揃って花道から帰ってくる。ここで始めて三人並ぶのであるが、三婦の雲龍の浴衣、団七が薄茶で徳兵衛が薄青の大きな格子柄の浴衣、ここもそれぞれの色、姿の伊逹さである。三人とも、これから起こる悲劇の少しの影もない明るさである。

団七は、舅が、琴浦を連れ出したと聞きと血相を変え表に飛び出していく。

 

 

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