大坂天王寺七坂 <織田作さんの坂道> (2)

<愛染坂>の辺りが夕陽丘町となっている。この坂上の谷町筋には地下鉄谷町線の駅があり、四天王寺前夕陽丘駅である。<愛染坂>から<口縄坂>までは、下寺町筋にそって歩く。<愛染坂>を下るとすぐに、「植村文楽軒墓所」の石碑がある。遊行寺(円成院)で、人形浄瑠璃を文楽と命名することになった、初代植村文楽軒のお墓と、三代目を讃えた「文楽翁之碑」がある。

<口縄坂>について、織田作さんは次のように記している。「口縄(くちなわ)とは大坂で蛇のことである。といえば、はや察せられるように、口縄坂はまことに蛇の如くくねくねと木々の間を縫うて登る古びた石段の坂である。蛇坂といってしまえば打(ぶ)ちこわしになるところを、くちなわ坂とよんだところに情調もおかし味もうかがわれ、」「しかし年少の頃の私は口縄坂という名称のもつ趣きには注意が向かず」「その界隈の町が夕陽丘であることの方に、淡い青春の想いが傾いた。」 そして、近くにある『新古今和歌集』の編者藤原家隆の草庵跡とされる場所でよんだ歌に触れている。< ちぎりあれば難波の里にやどり来て波の入日ををがみつるかな >

かつては、この上町台地は半島のように難波の海に突き出して、四天王寺の西側は波がぶつかる崖だったようで、その海に沈む太陽を見て極楽浄土を思う霊地であったようだ。織田作さんは、ここで、青春の落日に想いを馳せるのである。

現実の<口縄坂>はくねくねとはしていない。見通しのよい石畳の坂で途中から石階段である。お寺の白壁塀が良い感じである。坂を上りきったあたりに、織田作さんの文学碑があり『木の都』の最後の部分が刻まれている。夕陽というのは季節によって時間が異なり、お天気でなければならないし、この場所で見るというのはなかなか難問である。スタンプを押せるお寺は三寺あるが珊瑚寺でスタンプを押す。織田作さんがペンを持っていて<織田作之助木の都の坂>とある。

<口縄坂>から<源聖寺坂>に行く途中にも、萬福寺というお寺の前には「新撰組大阪旅宿跡」の石碑が立つ。今度は幕末である。境内には入れなかった。源聖寺の手前が<源聖寺坂>で両脇がお寺と土塀が続き、ゆるやかに石畳と石段が延びている。ここは四寺でスタンプを押せるが、一番近い源聖寺とする。このお寺の救世観音菩薩は花の観音様と呼ばれ親しまれておられる。ここのスタンプがまた面白い。台紙のほうに、「昭和末期まで源九郎稲荷がありました。今は生國魂さんに移っています。」 とあり、本当に生國魂さんで会いました。スタンプの絵は、こんにゃくをくわえたたぬきの背中に <こんにゃく好き 八兵衛はたぬきやけど> とある。これ大阪的というのか。<口縄坂>でちょっぴり哀愁を味わって居たら、狐にあぶらげ、狸にこんにゃく? よくわかりませんが面白い。今、生國魂さんには、源氏九郎稲荷と、松竹中座に祀られていた八兵衛たぬきが仲良く合祀されている。

生國魂神社は、多くの神々が祀られている。主軸は、生國魂大神らしい。<生玉真言坂>から上がって行くと北門があり織田作さんの像が見える。織田作さんの好きな井原西鶴さんが織田作さんの視線を受けるような位置に座っている。西側には、文楽の物故者を祀る浄瑠璃神社、土木建築関係の人が崇敬する家造祖(やづくりみやお)神社、金物業界の人が崇敬する鍛冶の神様の鞴(ふいご)神社、女性の守護神と崇められる鴫野神社などなど。もちろん源氏九郎稲荷神社もある。本殿の方には、上方落語の祖・米澤彦八の碑もある。

本殿は豊臣秀頼が修造した社殿、桃山式建築で屋根が凄く複雑で、千鳥破風、唐破風、千鳥破風と重なっている。これは「生國魂造り」といわれ日本で一つしかないらしい。大坂大空襲で焼け、台風で倒壊、現在のは昭和31年に復興されたものである。ここで七つ目のスタンプを押して、完歩証を受け取る。スタンプは、「淀姫ゆかりの女性の守り神がまつっている」とある。

このスタンプなかなか楽しませてくれる。<逢坂>の一心寺では 「一心寺内酒封じの墓」とあり、本多忠朝が鎧兜で、酒封じと書いたしゃもじを持っている。酒封じの効き目があるのであろうか。<天神坂>の安居神社は、道真公の絵で 「安居の井戸はカン静め」 とある。主宰は、てんのうじ観光ボランティアガイド協議会さんでした。

織田作さんの『放浪』のなかで、主人公・順平は、叔母の養子となる。叔母の亭主であり順平の養父は、「叔父は生れ故郷の四日市から大阪へ流れて来た時の所持金が僅か十六銭、下寺町の坂で立ちん坊をして荷車の後押しをしたのを振出しに、」とある。この坂は<逢坂>と思われる。スタンプラリーの台紙に<昔は急な坂で荷車が坂を登りきれないので押屋(荷車を押す人夫)がいたそうな。>とある。

 

 

 

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