国立劇場 『仮名手本忠臣蔵』第一部(1)

10月、11月、12月と三カ月連続通し上演です。これもまた国立劇場開場50年記念企画公演ということでしょう。

10月は大序の兜改めから四段目城明け渡しまでとなります。二段目の「桃井館力弥使者の場」「桃井館松切りの場」は省かれることが多いので、今回この場があることによって、由良之助と加古川本蔵の関係がよくわかり、ここがわかれば、八段目の「道行旅路の嫁入り」九段目「山科閑居の場」など単独で上演されてもつながりがわかり、頭の中もすっきりとして観劇できるとおもいます。

大序の幕開け前に人形による配役の紹介があり幕が開いてゆっくり役者さんたちが動きます。人形浄瑠璃での初上演が数ヶ月早いのでそれに敬意を表してという風にもとれますが、実際のところはわかりません。今でいえば、アニメの実写化決定という触れ込みで、早くも歌舞伎に登場「仮名手本忠臣蔵」と呼び込みをしたのかもしれません。

大序は、江戸時代に起こったことは時代をずらさなくてはなりませんから鶴ケ岡八幡宮前で始まります。戦死した新田義貞の兜改めをしています。義貞の兜を知っているのが切腹することになる塩冶判官(えんやはんがん)の妻・顔世御前です。いじめの師直(もろなお)は、この顔世に懸想していますが上手くいきません。それをじゃまするのが桃井若狭之助(もものいわかさのすけ)で、この若狭之助は師直が嫌いなのです。

師直も最初はこの若狭之助をいじめます。ところが若狭之助の家来の加古川本蔵が主人の性格と師直の性格をよくつかんでいて、主人が師直を斬ると打ち明けられるととめてもむだとしって了解し、その代り師直に賄賂を使います。師直は喜んで態度を変え、若狭之助にはおべんちゃらを言い、こんどは顔世御前にもふられたため塩冶判官をいじめの対象とします。そこで癇癪を押し殺せなかった判官は刃傷となり、それをとめるのが加古川本蔵なのです。

この時から本蔵は塩冶側からうらまれる立場となるのです。

そのながれの間に、由良之助の息子・力弥が桃井家の屋敷に使いにきます。力弥と本蔵の娘・小浪は許婚なのです。このふたりの初々しい顔合わせと、三段目のおかると勘平の逢引との違いなどとも比較できる幼さない恋心の見せ場です。

兜改めのあと、これから何が起こるかなど露知らず、自分の立場をのみ貫く足利直義の松江さんゆっくり花道をさります。

さて、高師直の女好きで、あからさまないじめ、賄賂で手のひらを反す変貌ぶりを左團次さんが余すところなく演じられ、枯れた声にときより丸みをもった発声があり、人をばかにしているようでいっそうそのにくにくしさが増しました。

最初観た人は判官と間違えてしまうほどいやがらせを受ける若狭之助の錦之助さん。怒り心頭で家来の本蔵に打ち明け、よしと覚悟しますが、師直の豹変ぶりに当惑するも嫌いなものは嫌いとその一徹さを通されます。

力弥が使者に来ると、娘に自分のかわりに使者の言伝えをきくようにと二人だけで合わせるよう取り計らう母の戸名瀬の萬次郎さん。嬉しいのであるがどうしたら良いのかわからない小浪の米吉さん。使者としての務めをいかにきちんとできるかしか頭のなかにないような力弥の隼人さん。なかなかない場面なので、若い役者さんとしても貴重な経験です。

特に力弥の役は、二段目があることによって「力弥は見ていた」ではないですが、重要な場面に出てくるのです。一番若いので摺り足でさがることも多く、役としても役者としても粗相のないように美しい立ち居振る舞いが要求されます。

潔癖な主人の若狭之助のために策をねり主人の気を晴らさせ、即自分は次の行動にでる本蔵の団蔵さん。まさか判官の刃傷となるなど思いもよらず主人のために手をよごしたのです。

最初は何事もなくおおらかに振る舞っている塩冶判官の梅玉さん。このおおらかさが、突然師直のいじめが矛先を変え自分集中することによって度を失い、何度か思いとどまりますが、踏み止まることができませんでした。

二段目があることによって観るほうは、その心の内を説明なしで受け止められ、役者さんもここはこの気持ちでと貯めてその場に出るという空白の部分が埋まっているので自然な流れになっていてわかりやすかったです。

 

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