歌舞伎座四月 『桂川連理柵』『奴道成寺』

桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)』は、複雑な親子関係の中で我慢しつつも、賢い女房を持ち穏やかに暮らしていた京の呉服屋の主人が、思いがけない事に巻き込まれ心中の道へと進んでしまうという芝居です。上方の心中ものは、お金と女性問題がからみますが、当事者を詰問するのが憎々しいのと同時に、可笑しさを伴っています。

<帯屋>は、主人公・帯屋長右衛門の店先での場となります。長右衛門(藤十郎)は養子ですが、養父は隠居して呉服店帯屋の主人となっりしっかり店を守っています。養父・繁斎(寿治郎)の後妻・おとせ(吉弥)は、連れ子の儀兵衛(染五郎)に跡を継がせたいと画策しており、おりから、兄の長右衛門が受け取ったはずの百両を兄・長右衛門がくすねたと母に告げます。おとせは、さらに戸棚にしまってある五十両を合鍵で奪い、長右衛門がくすねたことのしようと手ぐすねを引いて待っています。

長右衛門がもどり、詮議がはじまりますが、百両にかんしてははっきりしない言い訳で、五十両は戸棚から出そうとしますがありません。

吉弥さんのおとせは憎々しく、儀兵衛の染五郎さんは、母にくっついて動きまわります。その儀兵衛が、今度は、隣の信濃屋の娘お半と長右衛門がねんごろになっていると言い出し、「長様参る お半より」と書かれた手紙を証拠として出します。鬼の首を取ったように儀兵衛はその手紙を読みあげると、お伊勢参りの旅で長右衛門とお半が結ばれたことが書かれており、養父・繁斎もお金はともかく、お半とのことは何んという事してくれたとなげきます。お半は14歳で長右衛門は40に手が届く歳なのです。

夫の立場をよく知り賢い女房・お絹(扇雀)は、「長様」は「長右衛門」ではなく、隣の信濃屋の丁稚の「長吉」の「長」だといいます。笑いころげる儀兵衛。長吉(壱太郎)は、いつも洟を垂らして空気の少し抜けた風船のようにフワッ~としていてとらえどころがないのです。実はこの長吉がお半を好いていて、長右衛門とお半が結ばれる原因ともなったのです。

儀兵衛はそれなら長吉をここへ呼ぼうといい、ここから長吉と儀兵衛のかけあいで、染五郎さんと壱太郎さんのけったいなやりとりとなります。ところが、女房のお絹の扇雀さんの様子では、それとなく長吉を丸め込んでいたらしく、長吉は、お半さんとねんごろしたのは自分で、お半さんは自分の女房だと言い切ります。

なおせまる儀兵衛にくどいといって繁斎は、主人は長右衛門なのだからとおとせと儀兵衛を座敷ぼうきでせっかんします。悪態をつきつつおとせと儀兵衛の二人は退散です。いじめ役の染五郎さん、寿治郎さんに最後は痛い目にあわせられましたが、殺されるよりはましです。

いよいよ辛抱していた長右衛門とお絹夫婦のお互いの心の内を語る場面です。長右衛門はお伊勢参りの帰り石部の宿で、長吉につきまとわれたお半は、旅の途中で同宿になった長右衛門の蒲団に逃げ込んできて同じ蒲団にてと語ります。ことを荒立てたくないしっかりものの女房お絹は、夫の羽織の繕いをし、話しを聞いても夫が疲れているであろうとそこへ寝かせて奥へ引っ込みます。

信濃屋の暖簾をくぐり、ぽっくりの下駄の音も可愛らしくお半が顔をだし、さっと引っ込んでから、再び姿をを現します。お半の壱太郎さんの可愛いらしい出です。壱太郎さんの二役です。この出は上手く計算されている場面です。壱太郎さんはお半のあどけなさが残りつつ、長右衛門を恋しく想う様子を出します。それでいながら、この娘は一大決心をしていたのです。長右衛門の言葉に得心して帰りますが、長右衛門も胸騒ぎがします。

門口には置手紙と下駄があり、お半は一人で死ぬ覚悟です。お半は妊娠しており、そのことがさらに抜き差しならぬ方向へと向かわせるのです。長右衛門の藤十郎さん、手紙を読み、過ちでありながらも一人で死なせられぬお半への愛おしさを、抱える下駄に込めて後を追いつつ花道の引っ込みです。

この芝居は久しぶりにみました。長右衛門の辛抱役で年の差のある過ちとも、潜んでいた心の内ともとれない難しい役どころです。長右衛門は捨て子で、信濃屋に拾われ、五歳で帯屋に養子にきたのです。お半の小さい頃から長右衛門は、お半を可愛がっていたのでしょうし、長右衛門の立場など頓着なく愛らしい笑顔をお半は見せて慕っていたのでしょう。そんな世界に長右衛門はふっと引き寄せられたのかもしれません。しかし、四十の男のとる責任は死出の道しかなかったのです。

強欲さを笑いで、育ての親と子の情愛は背なかで、理想的な夫婦の完璧さの中で、あどけない美し過ぎる乙女が紛れ込んでしまいます。。和事での罪と罰ということでしょうか。その設定のしかたが恐れ入ったと思ってしまいます。

<石部宿>は、京都から東に向かうとき、最初に泊まる宿なのです。ですから、京都へ帰るときは最後の宿でもあるのです。

奴道成寺』。沈む複雑な心持ちの後に控えるのが、名曲にのせた、たのしい舞踊です。鐘の供養に来た白拍子花子が、烏帽子をとってみれば男であったという道成寺物です。花子に化けていたのは、近くに住んでいる狂言師左近(猿之助)。

例によって大勢の所化が登場しますが、そのなかにリトル所化が参加していまして、初舞台の大谷桂三さんの息子さんの龍生さんです。リトル所化なのにしっかり酒のさかなのタコを持参していました。先輩たちの所化(尾上右近、種之助、米吉、隼人、男寅 、弘太郎、猿四郎、笑野、右若、猿紫、蔦之助、喜猿、折乃助、吉太朗)の真ん中でとっても嬉しそうに踊っていました。笑顔いっぱいの小さな所化さんでした。

猿之助さんのおかめ、大尽、ひょとっこの三面を使っての踊り分けが見事で、首から肩にかけての女性、男性の身体の違いをはっきりとテンポよく変化させます。

花四天とのからみは、花四天のかたたちが、長唄に合わせてとんぼを切り倒れ、その音楽性に驚いてしまいました。きっちりあっていました。日頃の訓練のたまものでしょうか。立ち回りとは違う所作立ての動きでした。名曲にあった変化に富む舞踏に『娘道成寺』とは違う味わいを堪能させてもらいました。

 

 

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