歌舞伎座七月歌舞伎(1)

昼の部と夜の部両方に出られているかたが多いのですが、その中で、昼の部は良いのだが夜の部はちょっと賛同できないという方もあって、演目で書こうか役者さんで書こうか迷う所です。

今月は海老蔵さんが大奮闘されているので、海老蔵さんのことから始めて何とか収拾することにしてみます。海老蔵さんの一押しは『連獅子』です。狂言師右近と左近が出て来て舞台正面になり、左足の白い足袋の先がすっと前に出て足が伸び、右手に手獅子を携えてのきまりまでの間の良さと姿は例えようもない美しさでした。好い形です。

この連獅子は亡き海老蔵夫人と三津五郎さんに観て貰いたかったです。もちろん海老蔵夫人には親子の宙乗りが一番でしょうが、役者海老蔵さんの今の美しさの極みではないかと思える出来でした。そして左近の巳之助さんに対しては三津五郎さんがどこをどう駄目だしするのか聞きたかったです。子獅子を崖下へ落としたあとの親獅子の心持ちが、憂愁さを含ませながらの静かさが心に響きました。

僧蓮念の男女蔵さんと僧遍念さんの市蔵さんコンビもそこはかとない笑いをさそい、観ている者の心持を緩めてくれる度合いが良い具合でした。ところが夜の部での悪役の男女蔵さんはよくなかったです。

右團次さんは、『矢の根』の曽我五郎をされましたが、動きは決まっていたのですが、曽我五郎、春木町巳之助、月本円秋と全て台詞回しが同じでそれぞれの役が生きず残念でした。曽我十郎の笑也さんが女形のときの声と言い回しを捨てて十郎にしていたので出は少なくても夢の中の十郎しっかり印象づけました。弘太郎さんが荒事のなかでユーモアを加味し、馬の動きが上手です。

加賀鳶』の花道でのツラネは、若手から市蔵さん、権十郎さん、秀調さん、團蔵さん、左團次さんと続くとやはり味わいが違い、修業者から熟練者への違いが出ていて聴いていて面白かったです。先輩の役者さん達はこれだけの出演のかたもいてもったいなかったです。

中車さんの松蔵は、お店での海老蔵さんの道玄とのやり取りが貫録もあり、余裕をもって道玄を締めあげてゆき、歌舞伎の台詞術でここまでこられたかと面白く観させてもらいいました。しかし、玉島逸当、細川勝元となりますと、歌舞伎に入られての時間の短さを感じさせられてしまします。

海老蔵さんの道玄は御茶ノ水ので癪を起こす百姓の辰緑さんと出逢いが最初から悪役になっているのが気になりました。百姓がお金持っていると気がついてから悪を見せるほうが観客には面白いです。道玄と手を結んで悪巧みを手伝う按摩のお兼の右之助さんは二代目齋入を襲名されました。小柄な方で押し出しが優しいかたですが、道玄の悪事の共謀者として丁寧に演じられておられました。海老蔵さんも初役だそうですがかなりスムーズな芝居運びで、非情なところと、悪事がばれると下手にでる狡さを可笑しさまで持って行かれてました。

捕手との立ち廻りも首の動かしかた、腰の使い方が柔軟で道玄の人物像を見せつつ愉しませてさせてくれます。

お朝の児太郎さんが、身体を小さくして哀れさがよく出ていました。児太郎さんはお才といい今月は大躍進です。笑三郎さんは役者さんとして場を持つ役者さんとして信頼している方の一人ですので、道玄の女房と逸当妻松ヶ枝と押さえてくれました。

昼の部の満足度が高く、夜の部の『駄右衛門花御所異聞』での、一幕目が退屈で締まりがなく、どうなるのであろうかと二幕目に突入してやっと面白くなり助かりました。

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