『劇団若獅子』結成30周年記念公演

大正6年に澤田正二郎さんが創設した『新国劇』が70年で幕を締め、その芸を受け継がれた笠原章さんを中心とする『劇団若獅子』が30周年を迎えられました。合わせると100年ということで、「新国劇百年」として、澤田正二郎さんが最後の舞台となった新橋演舞場での「新国劇百年」の記念公演は、喜びの涙ですと、南條瑞江さんが最初に挨拶されていました。

南條瑞江さんのお着物の裾模様に二艘の和舟が描かれていて、『新国劇』と『劇団若獅子』の二艘合わせての百年であり、それぞれの舟が木の葉のように揺れたこともあったわけで、そんなことを思わされる御挨拶でした。

ここでも継ぐということの難しさがあるわけで、ただ猿之助さんが客演されて、その立振る舞いをみたとき、もしかすると、大衆演劇を目指した『新国劇』の芸が歌舞伎に変化して続く可能性もあると思わされました。猿之助さんは、舞台や映画で大衆を魅了した『男の花道』や『雪之丞変化』を演じられていて、『男の花道』は観ています。

今回新国劇の『月形半平太』を初めて観まして、それまでのと違うのだということがわかりました。愛之助さんも舞台化していましてわかりやすく楽しませてくれましたが、新国劇とは違っていました。

染八(猿之助)、梅松(瀬戸摩純)、歌菊(珠まゆら)の三人の女性に囲まれる月形半平太(笠原章)ですが。

新国劇では、染八は旦那である会津藩の奥平を月形半平太に殺され、月形を敵とねらいます。その短刀は染八の刀鍛冶である父親・一文字国重(伊吹吾郎)が鍛えた業物(わざもの)だったのです。今まで見たものには染八のこうした生い立ちなど出てきませんので、ただ月形を敵として果たせなかった芸妓としてしか印象になく、月形半平太と梅松との恋仲のほうが中心になりますが、染八を通しての時代の眼があったのです。

染八と梅松のさや当て、そして染八の刀鍛冶の娘として育った世間を観る眼が月形の男気に惚れるのです。猿之助さんの染八で、染八像が一変してしまいました。そして猿之助さんは歌舞伎になっていました。いつか、猿之助さんが新国劇の『月形半平太』をされる日があるような気がします。継ぐという意味ではそれもありと思います。

歌舞伎から大衆へ、大衆から歌舞伎へ。それは時代劇が危ぶまれている時代の拡散の方向性はどちらであってもいいと思います。(どさくさにまぎれて、猿之助さん『雪之丞変化』関東でもやってください。)

さて、三条橋下での月形である笠原さんと『劇団若獅子』の役者さんとの見事な立ち廻りとなります。『新国劇』は剣劇を目指したわけではないのですがそれで人気を博するわけです。そしてその剣劇もリアルさ求められ、時代遅れとされる殺陣師・市川段平のいきさつが映画『殺陣師段平』になっていて段平が月形龍之介さん、森繁久彌さん(『人生とんぼ返り』)、二代目中村鴈治郎さんとそれぞれの役者の見せ所をたっぷりと味わわせてくれる好きな映画です。

後先になりましたが、『国定忠治』は、舞台で初めて観たのは市村 正親さんの『国定忠治』で、脳梗塞で倒れて寝ているところに捕縛たちが取り囲み何もできない忠治をみてそうであったのかとその晩年を知ったのですが、ちょっとリアルで忠治のイメージが変わってしまいました。

赤城天神山での名台詞が生まれるのは、忠治一家は赤城天神山に立てこもっていますが、忠治の舅と身内の浅太郎(佐野圭亮)の舅の両方が忠治たちを捕らえる側であり、その義理をたてるための一家離散して山をおりるということになり、「赤城の山も今宵限りか。かわいい子分のてめえ達とも別れ別れになる旅立ちだ。」となるわけです。この情のやりとりも見せ所です。

赤城天神山の名場面から世話物の山形屋の場面では、豪快にお酒を美味しそうに飲みますが、忠治さんはお酒が好きだったんだなあと思わせられるそういう飲みっぷりでした。この場は、山形屋の伊吹吾郎さんと忠治の笠原章さんとのコミカルなやりとりを楽しめます。

『国定忠治』は新派の喜多村緑郎さんが月之助の時に、笠原さんの指導を受けて演じられていて、よい意味で拡散しているわけです。

『新国劇』にはまだまだ演じるものがありますから、さらなる道がつづいていくでしょう。淡島千景さんとの『蛍 お登勢と竜馬』もよかったですし、神野美伽さんの小春の『王将』もよかったです。猿之助さんは、亀治郎時代には、笠原さんの駒形茂兵衛でお蔦もやっているんですよね。

躍動的な演劇のなかで、じっくり聴かせる演劇は難しい時の流れでしょうが、継ぐということが拡散したとしても、どこかでまた吹き返す芽がでてくるような気がしますので、これからも猿之助さんの勘違いの30年で終わるんじゃないんですかという言葉を蹴散らして頑張ってください。

笠原さんも最後の挨拶で『ワンピース』の練習の忙しいなかと言われていましたが、猿之助さんが参加されて色々考えさせられ、意義ある参加となられたと思います。

 

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