歌舞伎座 新春高麗屋三代襲名

  • 歌舞伎座新春は37年ぶりの高麗屋三代襲名披露公演。三代襲名ということも凄いが、37年前に続いての再度の三代襲名が実現したのであるからお目出度いことこの上ない。こればかりは予定していてできることではない。巡り合わせの幸運である。そういう襲名公演であるが、幸四郎さんが口上で、自分にとって襲名は関所であると言われた。口上の後に『勧進帳』の弁慶がある。実感のこもった口上である。

 

  • 幸四郎さんの弁慶は、弁慶という役と闘い、そして吉右衛門さんの富樫と闘い、義経の染五郎さんを守るために闘っていた。闘いの力の入った弁慶である。誰が何んと言おうと自分と闘う弁慶を見せればいいのだと思う。長唄の名曲『勧進帳』。富樫が命を懸けて義経と弁慶の主従関係に感嘆するという設定。判官びいきの日本人の心情を鷲掴みにする作品である。簡単には弁慶役者の心に添わせてくれるような作品ではない。

 

  • こちらも『勧進帳』を自分成りに解体して改めて考えてみた。富樫は義経一行であると知りながら関所を通す。そして再び登場して弁慶にお酒をすすめる。なぜ。弁慶も断って早くこの場を立ち去るべきである。富樫は自分の死をかけてまで関所を通す弁慶という人物との時間を持ちたかったのであろうか。讃えたかったのか。弁慶が断らなかったのはわかるような気がする。弁慶は富樫のために舞って礼を尽くしたかったのである。幸四郎さんが、扇をかなり遠くまで投げた時、そう思った。富樫に対する気持ちを舞いに託したのではなかろうか。今まで長唄の演奏に乗る弁慶の動きだけを観ていて考えもしなかった。『勧進帳』は演じる時常にさらなる強固な関所が待っている。染五郎さんは、『東海道中膝栗毛』『大石最後の一日』『勧進帳』と一つ一つ関所越え中。

 

  • 車引』は基本形に添っての若々しい三兄弟であった。桜丸(七之助)、梅王丸(勘九郎)、松王丸(幸四郎)。三つ子の兄弟であるが、幸四郎さんにはもう少し太々しい押しがほしい。俺が一番だ!『阿弖流為』が荒事になったらどうなるか。幸四郎さんとなっての新たな妄想を。

 

  • 寺子屋』はやはり名前が変わっても芸の重みは変わらない白鸚さんの松王丸である。何回も観ていて謎解きがわかっていながら、その裏の気持ちが伝わるしどころの決まりの上手さ。主君のことを思って他人の子を身代わりにする側(梅玉、雀右衛門)とその心をわかって自分の子を犠牲にする側(白鸚、魁春)。現代であればとんでもないお話。お互いが疑心暗鬼にぶつかる身体と心の流れと止めが気持ちよく収まり、それでいて深さがある。間の合い具合の妙味。猿之助さんの涎くりが大人たちの場面ではひたすら手習をし、花道での愛嬌がほっとさせる。これだけの配役の『寺子屋』。若い役者さん、目にしておいてほしい。

 

  • 箱根霊験誓仇討』(はこねれいげんちかいのあだうち)は初めて観る作品。箱根での仇討とはこれいかに。小栗判官と照手姫のような出の勝五郎と初花夫婦。初花は敵に連れ去られるが、夫と母の前に戻って来て滝の霊験に身をまかせ飛び込んでしまう。弔う勝五郎は立つことができ、目出度く仇討ができるという話。勘九郎さん、七之助さん夫婦に敵役と奴の二役の愛之助さんで、秀太郎さんが母としての貫禄をみせ話として簡潔におさまる。

 

  • 双蝶々曲輪日記ー角力場』(ふたわちょうちょうくるわにっきーすもうば) 芝翫さんの濡髪長五郎に愛之助さんの放駒長吉。愛之助さんは山崎屋与五郎のつっころばしとの二役。愛之助さん早変わりのためか、長吉のほうに稚気が薄い。長五郎に勝ち有頂天で、長五郎と並んでそれに対抗して幾つかのしどころがあるのだが、その間が早くさらさらとやってしまいアクセントがない。自意識過剰の若造のおかしさの間がほしい。芝翫さんの出は大きいのだが色気が少ない。ご自身の襲名が一段落した安堵感中であろうか。稚気と大人の色気のコンビネーションをお願いしたい。

 

  • 締めは舞踊三題。『七福神』はお目出度い楽しい踊り。七福神が揃って踊るのは60年ぶりということで、どなたかなと分からなかったのが布袋の高麗蔵さん。大黒天の鴈治郎さんが弁財天の扇雀さんを誘いだすという神様もやはり女性を見る眼は同じというユーモアもあり、又五郎さん(恵比寿)、彌十郎さん(寿老人)、門之助さん(福禄寿)、芝翫さん(毘沙門)と神様でもほのぼのとさせるゆとりである。『相生獅子』も初春に観ると扇獅子で艶やかさが増す。扇雀さんと孝太郎さんで、七福神の役者さんたちの後に控える要の年代の孝太郎さんは少し力が入っているかなと。『三人形』は傾城(雀右衛門)、若衆(鴈治郎)、奴(又五郎)の吉原での様子であるが、踊りが現代に合わせた具体的な振りではなくよくわからず仲の之町の雰囲気だけ味わう。踊りがあると舞台の味わい方にも変化がでます。

 

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