10月歌舞伎座『宮島のだんまり』『吉野山』『助六曲輪初花桜』

  • 宮島のだんまり』は、宮島の厳島神社を背景に13人の登場人物が闇の中を動きまわって探り合うのである。赤旗が出てくるので、それをめぐる平家と源氏ということになる。途中でこの赤旗を全員が手に見得を切ったりするので小道具としてもいきる。最初は、大江広元、典侍の局、川津三郎の三人で次々増えてゆき、中心となる傾城浮舟太夫(実は盗賊)が背後中央から姿を見せて消え、さらに増えてゆく。役よりも役者さんは誰とそちらが気になる。

 

  • 観たときは何んとなくどんな人物かを姿でとらえていた。武士、奴、奥女中、姫とか。登場人物名をみて少し探りを入れた。観る前に知っていたらもっと楽しめたであろうと残念に思う。間違っているかもしれないが記しておく。傾城浮舟太夫・盗賊袈裟太郎(扇雀/ほかでのこの名は聴かない。衣裳と最後の引っ込みに注目)、大江広元(錦之助/『頼朝の死』に出てくる。政治に長けた立役)、典侍の局(高麗蔵/『大物浦』で安徳帝を抱える乳母)、相模五郎(歌昇/『大物浦』での注進。衣裳も分かりやすく目立つ)、本田景久(巳之助/くわしくは不明で立役ということでは他にもいるので難しいしどころ)、白拍子祇王(種之助/清盛に愛され捨てられた方で白拍子は分かりいい)、奴団平(隼人/色奴でこれも一目でわかる)

 

  • 今回の舞台は、来年の新春浅草歌舞伎のメンバーが色々な役を受け持ってい、修練の舞台のようでもある。役の衣裳を着させてもらうだけでも勉強になる。新しい春にはどんな役に挑戦することになるか楽しみである。ただ人形振りが二つあるというのは避けていただきたい。歌舞伎初めての観客が『操り三番叟』で、おう!といって興味を示したが、『京人形』では次第にテンションが下がりきみであった。気持ちわかります。興味度を表に出す分かりやすいお客さんでさすが浅草である。

 

  • 息女照姫(鶴松/お姫様)、浅野弾正(吉之丞/浅野長政のことなのであろうか。悪の立役であろうか不明)、御守殿おたき(歌女之丞/『小猿七之助』の奥女中滝川。そろそろ『小猿七之助』が観たい)、悪七兵衛景清(片岡亀蔵/名は分かりやすいが演る方にとっては重い)、河津三郎(萬次郎/曽我五郎、十郎の父。名前はでても、芝居には出てこない方である)、平相国清盛(彌十郎/これまた知られ過ぎていてかえって難易度)

 

  • 書いているともう一回観たくなる。13人を捉えるのは観る方にとってもゲームに挑戦する能力が必要になる。「だんまり」とは「暗闇」とも書くのだそうだ。暗闇でのだんまりとは言わないということか。まあいいでしょう。人間だもの。改ざんされた数字に比べれば。ただ時々やってしまうお名前の間違えは平身低頭である。ご容赦ください。

 

  • 吉野山』は言うことなしの満足である。静御前の玉三郎さんは花道からの出で、たっぷりと見せてくれる。失礼ながら、何が失礼なのかわからないが、勘九郎さんの忠信とぴったりなのである。勘九郎さんがそれだけ成長されたということであろうか。これ以上書くとはげ山になりそうなのでおしまい。

 

  • 玉三郎さんを観たいと友人がいうので先月夜の部の切符を用意してあげた。「『幽玄』、よくわからなかった。」気持ちはわかる。彼女は『鷺娘』で時間が止っているのである。『吉野山』を観せるべきであったかも。こちらも観てみないと決められないのである。海老蔵さんが観たいというので『源氏物語』を。「『源氏物語』は荒事のような張る台詞がないのね。あれが好きなんだけど。」それは『新・新・源氏物語』でもできればあるかもである。「歌舞伎って何か新しく変わってしまったのね。」観せたものがそうだったのであるが、選択の難しい時代ともいえる。

 

  • 今回の『助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)』はおおいに笑ってしまった。いつもは少々固まって観ていたようにおもう。揚巻の出とか、助六の花道のしどころとかしっかり観なくちゃの意識が働きすぎていた。七之助さんの揚巻は、匂いたつ花魁というより実のあるしっかり者という印象で、それがかえって助六を子供に見せているところが面白い。

 

  • 助六の仁左衛門さんは格好良さが決まっていた。助六は自分というモテモテ男をもっと格好良くみせようとしているのである。よく先人の役者さんはこうでもかというしどころを考案したものである。助六は、どうしたら相手に刀を抜かせられるか、その場その場でアドリブで考え行動しているのである。芝居として形になっているが、ちょっとそれを横に置いておくと現代のコミックも真っ青の行動である。

 

  • お兄ちゃんがまた助六に輪をかけて可笑しい。お兄ちゃんが勘九郎さんだからまたまた可笑しい。この兄弟メチャクチャである。これが成り立って名作となってしまうのであるから、歌舞伎おそろしやである。それに付き合う髭の意休が歌六さんで、ばかめと助六を甘くみていてはいけません。ほらね、やはりはまってしまった。

 

  • 助六に遊ばれるくわんぺら門兵衛の又五郎さんも喜劇性がなじんできました。朝顔仙平の巳之助さんはこういう役はやはり上手い。若衆とはいかにの片岡亀蔵さん。勘三郎さんの通人みましたよ。同じ役の重責を担って彌十郎さんが勘三郎さんに舞台から中村屋兄弟の活躍を報告をされていました。まだ少し繊細な千之助さんの福山かつぎ。男伊達もずらーっと男でござると微動だにしないで脇にひかえていました。さりげなく役目をはたす白菊の歌女之丞さん。大阪で見かけないと思いましたら竹三郎さんは遣り手お辰で江戸でしたか。さすが引き締め役の三浦屋女房の秀太郎さん。傾城はつぼみがはじけそうな白玉の児太郎さん。舞台の板にしっかり根を張り始めた宗之助さん。お名前わからないが堂々とした傾城が声もよくそろっていた。

 

  • 兄弟の母の玉三郎さん。このしっかりした母親だからこそ、こういう兄弟に育ったのか。こういう母親にいいところを見せようと思うからこそ、早く刀を見つけてと無理を通すのか。凄いですこのお母さん。こんな状態では、父に申し訳ないからお墓の前で自害するという。こういう母には勝てません。そして、紙子の着物を助六にお守りとして渡す。無理をすれば破れるのである。考えることが凄いです。こんなにハチャメチャ楽しい芝居だったのだ。そこを格好良くみせてしまうという表と裏の一体感。これだけだまされたら許せます。愉しみました。

 

  • 兄弟の母の玉三郎さん。このしっかりした母親だからこそ、こういう兄弟に育ったのか。こういう母親にいいところを見せようと思うからこそ、早く刀を見つけてと無理を通すのか。凄いですこのお母さん。こんな状態では、父に申し訳ないからお墓の前で自害するという。こういう母には勝てません。そして、紙子の着物を助六にお守りとして渡す。無理をすれば破れるのである。考えることが凄いです。こんなにハチャメチャ楽しい芝居だったのだ。そこを格好良くみせてしまうという表と裏の一体感。これだけだまされたら許せます。愉しみました。

 

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