歌舞伎座12月『幸助餅』『於染久松色読販』

  • 幸助餅』。電車の遅延で少し遅れての観劇となったが内容的には問題ないと思う。角力に入れ込んだ若旦那・幸助がすってんてんになり、妹を廓へ奉公させることになる。ところが贔屓の力士・雷(いかづち)が大関となり幸助に晴れ姿をと言われ嬉しくなって、廓から受け取った大金を祝儀だと渡してしまう。幸助は後悔し、恥を偲んでお金を返してほしいというが、雷はそれを拒む。その義憤を胸に幸助は発奮して餅屋となり幸助餅として繁盛させる。その陰には雷の後押しがあり、そのことを知って幸助は涙するのであった。定番の人情劇であるが上手く運んでくれ締めをほろりとさせた。

 

  • 欲を言うなら、幸助の松也さんが大関になった雷の中車さんに会って嬉しくなってご祝儀を渡すあたりはもう少し若旦那のどうしょうもない風情がほしかった。アホやなあ、またやってるわ!と思わせつつ、しゃあないなあと軽く受けさせる感覚がほしい。萬次郎さんが仲立ちで話の筋をたて、片岡亀蔵さんが叔父としてさとす。女房の笑三郎さんと児太郎さんが幸助の家族として支え、芸者の笑也さんが明るい話をもってくる。勧進相撲の寄付を集めに来る世話役の猿三郎さんの短い出に大阪が映る。

 

  • 於染久松色読販 お染の七役』。浅草の質見世油屋の お染(壱太郎)は丁稚の久松(壱太郎)に恋い焦がれている。久松には、死んだ父が紛失した刀とその折紙を探す仕事がある。お染の兄・多三郎(門之助)は放蕩者で芸者・小糸(壱太郎)を身請けするため折紙を番頭の善六(千次郎)に渡してしまう。善六は悪い奴で、油屋を乗っ取ろうとしている。番頭の悪巧みを聴いた丁稚の久太(鶴松)は番頭から口止め料を貰い、そのお金でフグを食べ死んで早桶の中。その棺桶はたばこ屋の土手のお六(壱太郎)の家におかれている。土手のお六はかつて仕えていた竹川(壱太郎)から刀と折紙を手に入れるために百両用意してほしいとの手紙をうけとる。竹川は久松の姉である。

 

  • 土手のお六の亭主・鬼門の喜兵衛(松緑)は、竹川、久松の父から刀と折紙を弥忠太(猿弥)から命じられ盗んだ張本人だった。喜兵衛は盗んだ刀と折紙を油屋に質入れして百両受け取っていた。その百両で弥忠太は小糸を身請けしようとしていたが、喜兵衛は使ってしまい金策の思案をしていた。そこへ、嫁菜売りの久作(中車)がたばこを買いに寄り、髪結いの亀吉(坂東亀蔵)が寄り、久作は亀吉に髪をなでつけてもらいながら、柳島妙見で油屋の番頭から額を傷つけられた話をしていく。その話を聞いた喜兵衛はゆすりをおもいつく。

 

  • 鶴屋南北さんの作品である。このゆすりは喜劇的展開を見せ失敗におわるのである。早桶に入っている死人の額を割り久作とし、さらにお六の弟であるとし、どうしてくれると油屋にねじ込むのである。油屋太郎七(権十郎)が渡したお金では少ないと百両要求する。ところが、死んだとされた久太はお灸をすえると息を吹き返すのである。丁稚の久太とわかり、ゆすりであることがばれてしまう。『新版歌祭文 野崎村』でもお灸をすえる場面があるのを思い出す。久作の娘・お光(壱太郎)もすでに柳島妙見の場で登場している。

 

  • 久松はお染との不義の罪で土蔵に閉じ込められ、お染は嘆くが継母・貞昌(壱太郎)が油屋のため清兵衛(彦三郎)と結婚してくれとさとされる。お染と久松は心中することを申し合わせる。久松は、喜兵衛がゆすりに失敗して蔵に刀を盗みに来たためあやまって殺してしまい探していた刀を持ってお染の後を追うのであるが、お染は連れ去られてしまう。そこへお光が久松を探してやってくる。久松は久作に育てられ、お光はずっと久松と一緒になることを信じていたのであるが、久松が油屋へ奉公に行ってそこの娘と恋仲であるとの噂から、ついに気が触れてしまっていた。隅田川で船頭(松也)と猿回し(梅枝)を振り切ってあてどもなく久松を追うお光。

 

  • というわけで壱太郎さんの、お染久松小糸土手のお六竹川お光貞昌、の七役である。一番魅力的で今までの壱太郎さんの役の枠を超えたのが土手のお六である。娘役は経験から難は無いであろうとおもっていた。ところがお六が無理につくったというところがなく、自然に話のながれに添って、かつて仕えた人への義理、こんな暮らしだからやることと言えば悪に決まっているが、そこは粋に格好良く決め、後はご愛嬌という変化を上手く作られていた。自分は自分の鬼門の喜兵衛の松緑さんも色男の顔にしてすっきりと決め、とんだ結果にさもありなんの引きのよさである。脇が皆さん役どころを経験済みの役者さんで、早変わりの芝居はなんのそのとその場を押さえてくれ、こちらもゆったりと早変わりと芝居を楽しませてもらった。

 

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