国立劇場『通し狂言 姫路城音菊礎石』

  • 今年一番始めの観劇が国立劇場『通し狂言 姫路城音菊礎石(ひめじじょうおとにきくそのいしずえ)』だったのであるが、歌舞伎をめったに観ない友人が珍しく観に行くという事なので友人の感想を聞いてからと思っていた。歌舞伎のほうは、話しの流れとしては分かりやすい。菊五郎さんが桃井家を守る従順な家老かとおもったら実はその反対のお家を潰す悪家老で、出番は少ないが主軸である。桃井家再興のために奔走する人々と、さらに桃井家に恩のある狐の夫婦が恩返しと頑張るのである。例年菊五郎劇団が国立劇場の新春歌舞伎を飾り、スペクタルな奇想天外な芝居が多いようにおもうが、今年は地味系である。

 

  • 友人に感想を聞くと「う~ん、う~と。」とうなっている。何となくわかる気がするのである。少しずつ誘導尋問風に尋ねてゆく。「芝居の筋はわかった。家老が悪人と知ってそう展開するのかと思った。お家騒動が現代においてそれほど重要なテーマなのであるかどうかよくわからないので距離感もあった。まあ歌舞伎だからであろうが。いや、う~ん。」役者さんは。「役者さんは、途中からイヤホンガイドを借りたので何となくわかった。」この役者さんはもう一回違う芝居で観たいと思う役者はいたか。「いなかった。」残念。出演している役者さん一人一人の輝きが薄くなかったか。「そう、そうなのよ。」

 

  • やはりなあと思う。内容的も分かりやすかったので、役者さんの役どころの光を求めたのだがそれを感じとれなかったのである。お家再興のために働くのにそのオーラが低いのである。どうしてなのであろうか。友人は本と演出かなという。

 

  • 観ているうちに今作品が、復活狂言を目指しているわけでそこに主眼があるが、菊五郎さんが、次の世代に橋渡しの試みをしているようにも思えた。菊之助さん、松緑さん、梅枝さん、萬太郎さん、尾上右近さん、竹松さん、坂東亀蔵さん、彦三郎さん等へ。現代の人が観るのであるから現在の役者さんの輝きをも考慮する必要があるのでは。そのさじ加減が難しいところであろうが。この作品もかつては芝居の内容と役者さんが一致して盛り上がったと思う。芝居自体の盛り上がりとその中で切磋琢磨する役者さん、その両方が観れるのが観客にとってはベストであり、理想である。なるほどなるほどで終わってしまった。それぞれに小さな竜巻を起こして欲しかったのであるがそこまでいかない納得さでまとまってしまった感じである。

 

  • テニスを趣味としている友人はテニスに例えると話がはずむ。遅まきながらコーチについて基本を習い始めたら、基本というものがいかに美しいかを知ったという。それと同じことが歌舞伎の身体の基本にはある。美しいのである。上手な人のプレーを見るとあの形をやってみたいと思う。歌舞伎役者さんも先輩たちの芸をみるとああなりたいと思い演じて見たいとなるであろう。それは凄くよくわかる。相手のプレーがわかっている場合待ち受けて基本の形で受けることができる。ところが、思ってもいない球がくると基本などはなくなっている。それではいけないのであるが、でもそうくるかとこれまた面白いのである。レベルの上の人とやっていると少ないが、その面白い場面に会って嬉しくなり楽しくなる。役者さんにもそんな感覚があるのではないだろうか。

 

  • 小さな役者さんの寺嶋和史さんと寺嶋眞秀さんに対してはどうおもったのか。お客さんに拍手をもらって喜びを感じてこの道を進んで行こうと思うのであろうが、大変な進むべき道ね。でもスポーツの場合は勝ち負けで決まってしまう厳しさもある。勝ち負けがないだけにつかんだという手応えがないかも。それは、観客との空気かなあ。可笑しいときの空気、息を詰めている時の空気、先輩の役者さんと観客との空気、それを感じれるのは舞台に立っていれるからこそだろうし、テニスはコートに立っていればこそよ。生身の一か月は大変ね。取り留めない長電話であった。プロでない気楽さのなせるわざである。

 

  • 舞台は始めに姫路城の美しい映像が浮かび上がっている。歌舞伎の舞台もこういう新しい手法がどんどん盛り込まれていく。桃井家の後室の時蔵さんは、姫路城に妖鬼がでると噂を流しその事を利用して妖鬼退治の名目で求人し、剣の達人を見つけお家再興に役立たせようという試みも行う。お家没落も先代萩のごとく、しかけられた若殿様の遊蕩である。そして狐の恩返しの早替わりも盛り込まれる。

 

  • 楽善さん、團蔵さん、権十郎さん、片岡亀蔵さん、萬次郎さん、橘太郎さんらが脇をがっちり固めてくれるので、その中心の花芯を担う世代の重要性を強く感じる。先輩達からの教えを受けつつ、自分たちでお互いに主張し高める時期にきていると。稽古時間の少ない歌舞伎であれば、その切磋琢磨する時間をどこで作るのか。そういうことも考慮しなければならない時代性も感じる。そしてそこに次の世代を巻き込む勢い。そんなことを感じさせられた国立劇場観劇であった。
  • BSプレミアム 2月3日の夜中24時から放映とのこと。

 

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