歌舞伎座2月『當年祝春駒』『名月八幡祭』

  • 當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)』。洋画を見続けていたので長唄の八丁八枚、お囃子が心地よく響く。中央のセリがあがり、工藤祐経(梅玉)、小林朝比奈(又五郎)、大磯の虎(米吉)、化粧坂少将(梅丸)が登場。人数は少ないが長唄お囃子連中をバックに梅の華やかさと相まってパーっと明るい。花道から曽我十郎(錦之助)、五郎(左近)が春駒の門付けで登場。

 

  • 左近さんの節のないすっと伸びた素直さがさわやかである。踊りでの工藤に対する仇の気持ちもむき出しではなく、それとなく伝える。それを押さえる兄の十郎と朝比奈。十郎はあくまでも気品をもって、それに添う朝比奈の踊りにユーモアが加わる。大磯の虎は少し威厳をもって、化粧坂少将は愛らしく、曽我物のキャラの雰囲気をそこはかとなく描いている。工藤が狩場の切手を「切って」に掛けて投げ与えて大きさをみせて幕となる。曽我物が続く中、ほど良いリズム感に梅の香りを感じる舞台である。

 

  • 名月八幡祭』。真面目で真っ直ぐな考え方の越後の行商人縮屋新助が深川芸者美代吉に百両用意してくれればいっしょになると言われる。ひたすら信じて家、田畑を売り払い百両こしらえる。田舎には老いた母もいるのであるが、美代吉と二人で働いて頑張れば取り戻せると考えている。コツコツと働いて生きてきた新吉と美代吉では世界が違い過ぎていた。

 

  • 美代吉には藤岡慶十郎という旗本の旦那がいる。この旦那が良い人で、美代吉には船頭三次という情夫がいるがそのことも知っている。お金に綺麗な旦那で美代吉の旦那である以上、美代吉が三次にかんざし与えたのを知って、そんなみっともないなりじゃ俺が笑われるとお金を渡す。申し訳ないといってかしこまる美代吉だが、お金を貰い、三次が現れるとこのお金でぱーっと飲もうよという。お金がないのだがはした金では仕方がない、宵越しの金はもたないよの性格なのである。

 

  • 土地を抵当にでもして百両こしらえ、八幡祭りの用意をして美代吉姐さんの粋をみせてそのあとはどうとでもなれの生き方である。そこに美代吉に惚れこんでいる真面目な新助があらわれる。新助が気になっていた三次が現れるが、美代吉は啖呵を切って三次を帰してしまう。これも美代吉の気分屋のあらわれで、なんとでもなるという性格なのである。新助は美代吉が困っているならと一生懸命になる。その真面目さを深く考えることもなく一緒になることを約束する。美代吉には新吉のような行商人にお金が作れるわけがないという投げやりなおもいもある。

 

  • お金の使い方を心得た旦那の藤岡から手切れ金が届く。そこへ三次が恥をかかされたと刃物をもって現れる。美代吉は三次が自分を本気で殺しに来たとは思っていない。三次もそのつもりで一種の二人の戯れなのである。美代吉の母も二人にはあきれてしまうほどなのである。そういう世界の二人なのである。そんな二人のところに新助が息せき切ってもどってくる。美代吉は新吉にお金は出来たからもう大丈夫という。利子をつけて返しておくれと軽く云う。新吉が思い込んでいるような美代吉ではなかった。新助の帰る場所はもうないのである。

 

  • 八幡祭りを見て帰りなと越後に帰るのを引き留めた魚惣は心配してやってくるが、まさかこんなことにまでなるとは想像しなかった。どこかで新吉が美代吉の性格を知って深入りしないであろうと思っていたのである。面白おかしくその日を暮らす美代吉。自分の生き方を通す美代吉は、新助とは世界が違うが客商売ゆえ軽くその場その場であしらっているのである。ところが、新吉は美代吉も自分と同じ世界に生きてくれる人間になってくれると思い込んでしまっていたのである。

 

  • 切れると言って切れない男女の仲、お金に対する価値観など美代吉の住む世界と新助の世界は違い過ぎた。その亀裂に挟まって狂ってしまう新助のその先は。新助は美代吉を殺すしかなかった。高々と笑い、祭りの若い衆に担がれて花道を去る新吉。三次のような男を情夫にして好きなように生き、お金が転がりこみ何とかなってしまうような生活をしている者には、新助の実直さは通じなかったのである。月の明るさもどこか妖艶である。

 

  • 深川の花街で繰り広げられる人間模様。美代吉に明るく声をかけられる新吉。そのずれに観客は可笑しさを感じる。魚惣の心配がわかる。藤岡の遊び方。その中での美代吉と三次の仲。苦笑がおこる。そこへ飛び込んだ新吉。信用が第一と商売してきた新吉には泳ぎ切れない人の流れであった。

 

  • 初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言である。初世辰之助さんが縮屋新助を演じられた時、今回同様、芸者美代吉は玉三郎さんで、船頭三次は仁左衛門さんだったそうである。その先輩たちに挟まれての松緑さん初世辰之助さんにどんな報告をされるのであろうか。

縮屋新助(松緑)、芸者美代吉(玉三郎)、魚惣(歌六)、魚惣女房(梅花)、美代吉母(歌女之丞)、船頭長吉(松江)、藤岡慶十郎(梅玉)、船頭三次(仁左衛門)

 

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