映画『母』・『どっこい生きてる』

映画『』(1963年・新藤兼人監督)。場所は広島で、広島に原爆が落とされてから18年後の広島が映されている。18年後の広島がどんな様子かを見れる映像としても貴重である。

夫に捨てられた母親が三人の子供を育て、その娘が三回結婚し母親としてどう生き抜いて自分を取り戻していくかが描かれている。観ていると主人公である民子がこのままもっと悪い状況にはまり込んでいくのではと心配になる。ところが民子は自分を取り戻し、自分で選択し新しい命を宿すのである。

民子の最初の夫は戦死してしまう。二回目の結婚では夫の放蕩から息子・利夫を抱えて離婚。利夫は目がかすみ脳腫瘍であることがわかる。岡山の大学病院でなら手術できるという。しかしお金がなく民子は入院費を出してくれると言う田島と三回目の結婚をする。

民子は利夫を宿した時、この夫の子供は産みたくないと思ったことを思い出し利夫がいっそう不憫でならなくなる。手術は成功するが再発してしまい、3、4ヶ月の命と告げられてしまう。生きている間、利夫の望みは何でも叶えてやりたいと盲学校へも通わせ、オルガンも買ってやる。

オルガンは民子の弟・春雄がお金を出してくれたのである。春雄は母の期待から大学まで行かせてもらうが大学をやめバーで働いていた。その春雄が遊覧ヘリコプターに乗り上から広島市内をながめる。このあたりは脚本も書かれた新藤監督の上から広島を映したいとの意思を感じる。この優しい春雄がバーのママのパトロンと争い亡くなってしまう。

利夫も民子の腕の中で息をひきとる。気がふれたのかとおもわれる民子。病室のベットの上で民子は母から妊娠してることを知らされる。母は田島との結婚は一時しのぎのつもりですすめたのにと告げる。民子も田島を夫として受け入れられるか自問し続けてきた。

田島は利夫のために貯金を使いさらに借金までしてくれた。朝早くから夜遅くまで印刷機械に向かってやっとためたお金である。民子は一緒に働いていてよく知っていた。民子は自分の意志で田島を受け入れることを決めたのである。民子は宿った命に生きる力をもらっていた。利夫が点字で読んだ言葉が民子を包み込む。

母・芳枝の生き方と娘・民子の生き方を提示してもいる。それが杉村春子さんと乙羽信子さんなのであるからそれだけでも見どころありである。民子が自分の意志で命を宿すところは自分で判断する女、新しい母親を描いている。流されてきた自分をしっかりつかまえる民子。民子は時々頭痛に悩まされていた。それは民子の心から発信されていた何かへの抵抗だったのであろう。

利夫、田島、田島の娘、春雄に助けられ民子は新たな母となって再生された。

』の題字が岡本太郎さんである。

民子(乙羽信子)、芳枝(杉村春子)、利夫(頭師佳孝)、春雄(高橋幸治)、長男・敏郎(加藤武)、田島(殿山泰司)、医師(佐藤慶)、医師(宮口精二)、バーのマダム(小川由美子)、マダムのパトロン(武智鉄二)、文学座等。

バーのマダムのパトロンが武智鉄二さんで、なかなかの貫禄である。武智鉄二さんの映画『源氏物語』は、光源氏の衣裳が豪華で美しかった。衣裳が松竹衣裳とあり、あれだけの衣裳を新調はできなかったであろう。最後まで孤独な光源氏で衣裳が豪華で美しいだけに虚無感がただよっていた。

核兵器禁止条約の批准に43か国が参加。発効には50カ国・地域の批准が必要だそうである。被爆国がなんで批准しないのか。風化することを待っているのであろうか。待っていれば何でも国民は忘れると思われているようだ。

映画『どっこい生きてる』(1951年・今井正監督)。今井正監督の独立プロ第一作目の作品である。

日雇い労働者の生活をリアルに描いた映画である。朝早く駈けてどこかへ向かう人々。公共職業安定所に向かっているのである。そこで一日だけの仕事をもらうのである。一日働いて240円。ところが雇われる人数は決まっているからあぶれてしまう人も多い。

かつては職人を二人置いてオモチャのプレス工場をやっていたこともある毛利は戦争もあり、今は日雇い労働者である。家に帰ると大家が土地の権利を売ってしまったから家を壊すので出てくれとの催促。どうすることもできず妻・さとは子供二人を連れて姉のところへ行くことにする。

毛利は簡易宿泊所に行く。そこには日雇い仲間の花村もいた。求人募集の広告から毛利は旋盤工に雇われ喜ぶが、雇われても月給であるからそれまでが生きていけない。日雇いの仲間の水野に相談に行く。水野は秋山の婆さんに相談。婆さんは仲間を集めて給料日まで貸してやってくれと頼む。皆なけなしのお金を出してくれる。この頃一円も札である。423円集まり、毛利は水野と秋山の婆さん励まされる。

簡易宿泊所では花村も喜んでくれるのである。ところがである。花村がバクチに勝ち焼酎を一升瓶で買いご馳走してくれる。気のゆるみから毛利は酔っぱらい、かつては自分は二人の職人を持つ主人であったと自慢し始める。そして酔いつぶれる。気がつくとお金は無くなっていた。さらに工場にいってみると旋盤工の職もクビと宣告される。

意気消沈して秋山の婆さんを尋ね事情を話すとこっぴどく怒られてしまう。秋山の婆さんは観る側の代弁をしてくれる。観ていて何をやっているのかと思っていた。いまさら主人であったことを自慢して何になる。こういうところがあるのが人間なのかもしれない。

花村がお金になる仕事があると誘う。人の敷地に入って金属を盗むのである。朝鮮戦争特需で金属は高く売れた。泥棒と追いかけられ簡易宿泊所にもどると警察へ連れていかれる。妻と子供が東京に戻って来るのにお金がなくキセルで捕まったのである。姉のところも頼れる状態ではなかった。毛利は一家心中を決意する。花村が分け前のお金を渡してくれた。

最後の贅沢である。子供たちは遊園地ではしゃぎまわる。何んとか思いとどまってくれることを願う妻。そんな時、息子が池でおぼれる。必死に助ける毛利。

日雇いの職安に毛利の姿があった。心配していた水野は毛利を見て笑顔でむかえる。秋山の婆さんの姿も見える。どっこい生きている。

毛利(河原崎長十郎)、さと(河原崎しず江)、花村(中村翫右衛門)、水野(木村功)、秋山の婆さん(飯田蝶子)、大家(河原崎國太郎)、前進座等。

飯田蝶子さんの統率力のあるお婆さん役はいつもすばらしい。リアルで生き生きしていてへこたれない。長十郎さんの気の弱さと、どうやってでも生きていく翫右衛門さんのリズム感ある動きの対象もおもしろい。若い梅之助さんも話し方でみつけられた。

』も『どっこい生きてる』も暗い映画のイメージがあり、気持ちが沈むのではないかとおもいがちであるが、どっこい、当時の映画人の気迫が伝わってくる。そして名もなき人々の支えがどこからともなく湧き出してくる力がみえる。気をもらえる。

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