伊藤若冲(1)

テレビドラマ『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』は、想像力を膨らませてくれるドラマであった。あのあでやかな若冲の絵に、若冲と大典顕常(だいてんけんじょう)との妖しき友愛がなんとも不思議な魅力を加えてくれました。面白い解釈でした。七之助さんは、昨年は二回も観劇を中止して生を観れなかったので、女方の柔らかさがほの見えて満足。ほあ~んとしたところが、才能を持ち合わせていたオタクの若冲という印象に新鮮味がありました。演出的にも永山瑛太さんの美しさもかなり計算されていたのでしょう。

二人を出会わせた絵を「蕪に双鶏図」とし、京都から一歩も出たことのない若冲の絵の修業がお寺が所持する絵の模写というのも納得である。池大雅が各地を旅していたのは知らなかったし、円山応挙とも上手くドッキングさせ最後に人気番付が一位・円山応挙、二位・伊藤若冲、三位・池大雅という落ちもなかなかでした。

若冲、大典、応挙、大雅の4人を結ぶ放浪の茶人・売茶翁(ばいさおう)の出現も短時間でドラマ化する役目を上手く担っている。

若冲は大典顕常とお釈迦様が中心にいる美しい世界を描くことを約束する。約束を果し、「釈迦三尊像」3幅、「動植綵絵(どうしょくさいえ)」30幅の計33幅を相国寺に寄進するが、その中の2幅はわが同志の大典顕常に捧げるという。それが「老松白鳳図(ろうしょうはくおうず)」と「芦雁図(ろがんず)」である。白は自分で黒は大典。落下してくる雁を見つめる白鳳。ドラマの作品としてこの二つの絵に注目し設定したのがお見事である。

相国寺の承天閣美術館へ行った時、若冲があるというのであの極彩色が観れるとおもったが地味な水墨画でした。その時は知識もなくがっかりしたのです。金閣寺の書院にかかれた壁画の一部があり、当時としても書院の水墨画はめずらしかったようで、もう少しじっくり鑑賞すればよかったと今になって後悔しています。この壁画で若冲は絵師と認められるのです。

明治の廃仏毀釈で相国寺は困窮し、「釈迦三尊像」は遺し、「動植綵絵」は皇室が買い取り相国寺は存続することができたわけで若冲が守ったことになる。それで納得できたことがあるのです。

学習院大学資料館で開催された『明治150年記念 華ひらく皇室文化―明治宮廷を彩る技と美』で明治宮殿の写真がありそこに若冲の絵が飾られていたのである。驚きました。どうしてここの若冲があるのであろうか。これで解決である。

この展覧会は興味深いもので、西洋化のなかでも日本の技芸を残そうと、帝室(皇室)技芸(美術)員制度をつくる。皇后のドレスにも日本刺繡で飾ったり、帝室技芸員には浅草の元からの職人さんたちが技芸員として腕をふるっていたりしたのである。

「ミュージアム・レター」には、現天皇が皇太子のとき学習院大学資料館の客員研究員をされていて、一研究員としての自然体の人柄を感じさせるほのぼのとする文章を寄せられていた。(「華ひらく皇室文化展」に寄せてーボンボ二エールの思い出ー)立場上こういう文章を書かれることはもうないのであろう。

さて若冲にもどるが、2019年の1月に「天才絵師 伊藤若冲 世紀の傑作はこうしてうまれた」というテレビ番組があり録画して観ていなかったのである。今回ドラマを観てから再生したのであるが、「動植綵絵」を詳しく分析してくれていた。

2016年に「釈迦三尊像」と「動植綵絵」の33幅は日本で公開されているが、観ていない。さらに2018年にパリで公開され並ぶのがきらいなフランス人が並んだという人気ぶりであった。

その時、相国寺有馬頼底管長もパリに行かれて読経をあげられている。そして、若冲が相国寺に33幅を奉納したのは、弟が若冲に代わって家業を継いでくれたが疲労のため亡くなってしまったのでその菩提を弔うために寄進したと話されている。

番組は「動植綵絵」を5つのキーワードで解説していく。極彩色の色どり「彩」。神わざといわれる「細密」。緊張感の中に秘める「躍動」。「主役不在」。ぬぐいきれない「奇」。

「主役不在」というのは、釈迦三尊のまわりに存在するすべての尊い命ということにもつながるであろう。「老松白鳳図」はレースのような羽根の「細密」。そして「奇」にも入る。それは羽根のハートの文様で、トランプはすでに日本に入ってきていたので若冲はそれをみたのかもしれない。さらにフラシスコザビエルの人物画にハートが描かれている。愛をあらわしているのである。ただキリスト教と関係するなら隠さなければならないが、若冲は描いている。そこが「奇」である。

ドラマと重ねて現代の解釈からすると「愛」であろう。「芦雁図」は、上に向かって飛ぶ鳥が普通描かれるが、落下する鳥というのが若冲独特の眼かもしれない。老松と白鳳、落下する雁は死にむっかているのかも。その絵の前で若冲と大典顕常は死がふたりを分かつまで一緒に友でいましょうと約束する。

仏教徒ですから、死んでもこの二人はお釈迦さまの回りの動植となって何からも解放され若冲の絵の世界のあの世で永遠の日々を謳歌しているのかもしれない。それを望みつつ美しく細密に躍動的に心を込めて描いたのかも。若冲がその世界を描けることに大典顕常は嫉妬したが、きちんと二人の世界も描いてくれていてのさらなる宇宙で、自分の想いが通じていたと満足したことであろう。この二人のキーワードを加えると「秘」と「愛」であろうか。

若冲の絵にはまだまだたくさんの「秘」がありそうである。

江戸時代のひとは、アジサイはすぐ増えるので嫌ったそうであるが若冲は描いている。当時の人々の感性におかまいなしに自分の感性のおもむくままに描いている。だからこそ今も感嘆しさらに面白がられて楽しませてくれる。

若冲に関しては知らないことが多く、ドラマはまた違うドラマを呼び起こしてくれました。

中村七之助・永山瑛太 W主演!正月時代劇「ライジング若冲 天才 かく覚醒せり」制作開始 | お知らせ | NHKドラマ

追記: 源孝志監督の映画『大停電の夜に』は、クリスマスイヴに停電がおこる。その事によってそれまで隠されていた事実があきらかになり、ねじれてしまっていた人間関係がスームズに上手く流れるようになる。交流の無かった人々がどこかで作用しあう。停電は結果的にサンタクロースのプレゼントとなる。穏やかな展開でありながら意外性あり。

追記2: 若冲さんの絵の本を手もとに置き、澤田瞳子さん著『若冲』に入る準備整う。どんな若冲さんであろうか。心持ち飛躍。図書館にネットで予約した本も届いたと連絡あり。接触少なくて助かります。

追記3: 図書館では返却された本と予約の本は消毒してくれていた。他の図書館で借り手が殺菌する機器を利用できるところがあったので設置の希望をだした。置いてある鉛筆を「消毒済」「使用済」に分けてくれていたが、マジックの黒で書かれていてウム!とおもったので赤でわかりやすくしてはとお願いしたら、「消毒済」「使用後」となって赤を上手く使ってパッとわかるようになっていた。使わない人もやってくれているのがわかる。よかった。 

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