映画『ドアをノックするのは誰?』『ミーン・ストリート』

ドアをノックするのは誰?』はすでに書いているので、『ミーン・ストリート』から入ります。

ミーン・ストリート』は、ニューヨークに住むイタリア系アメリカ人の街の若者の姿が描かれています。イタリア人系の街といっても色々あるようで、映画はシチリア系の多く住む下町ということのようです。こういうことはそうなのかという感じでよくはわかりません。映し出されている祝祭は聖ジェナーロ祭でナポリ人のお祭りだそうです。地域によって守護聖人が違うらしいのです。

マーティン・スコセッシ監督の住んでいたところは組織的犯罪が網の目のように巣くっていて、逃れる術がなく自分が罪を犯さなくても周囲に犯罪が満ち溢れていたといいます。ある時、ドライブに行って家に帰った後、数分の差でその車が銃撃されたこともあったといいます。

主人公のチャーリー(ハーベイ・カイテル)は友人のジョニー(ロバート・デ・ニーロ)に手こずっていますが、自分がかばってやらなければあいつは生きていけないと思っています。

ジョニーはお金を借りまくりその場その場で言い訳したり返すと約束しますが、返さないというか返す気がないというかやっかいな人間です。チャーリーの口添えもあるからと貸し手のマイケルは待ってくれているのです。

観ていてもこのジョニーはどうしようもない人だとおもいます。トラブルメーカーです。何とかしようとするチャーリー。チャーリーは父親代わりの叔父からレストランを任されることになっています。叔父からジョニーとは手を切れといわれています。叔父には内緒で何とかしようとしているのにジョニーは、叔父さんに話してお金を都合してもらおうよとのたまいます。そんなことをすればチャーリーは自分のレストランの仕事もダメになってしまいます。

この街にいてはジョニーが危ないと、チャーリーは車でジョニーを連れ出します。しかし、お金を貸して踏み倒されたマイケルが追いかけてきて銃撃されます。命は助かりますが、この後この若者たちの明るい人生は難しいだろうと想像してしまいます。

この映画でロバート・デ・ニーロが主人公のハーベイ・カイテルの演技を食ってしまうということになりました。言ってみればそれくらいジョニーはやっかいな人物なのです。

この映画の前にコッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972年)がヒットしています。『ミーン・ストリート』は最初に上映されたのが二ューヨーク映画祭で、見た人たちが自分たちの街のようだったと声をかけてくれ、『ゴッドファーザー』よりもリアルだったという意見が多かったようです。

聖ジェナーロでの撮影の時教会の管理者から使用料を要求されたがお金がなくコッポラ監督が立て替えてくれ、映画が売れたのでコッポラ監督に借金を返せたということもあったようです。

スコセッシ監督は実際のストリートでは喘息もあり見ている側で、彼を落ち着かせてくれる場所が教会でした。司祭になろうとし神学校に通いますが成績が悪く放校。高校でもっと勉強したくなって、ニューヨーク大学の映画学科に進み、そこでバグダット出身のマーディク・マーティンと出会い誰も観ないようなマニアックな映画の話ばかりしていました。マーディク・マーティンは『ドアをノックするのは誰?』で助監督をし、『ミーン・ストリート』では共同脚本に参加しています。

マーディク・マーティンはスケールの小さなチンピラを描きたかったと語ります。登場人物はスコセッシ監督の家の近所に住む人がモデルなので、自分はストーリーを見つめる冷めた視線をたもっていたと。

スコセッシ監督は後になってチャーリーとジョニーの関係は父とその弟の関係であると気がついたといいます。いつも問題を起こす弟がいてそのたびに父は他の兄弟と親族会議を開いて何とかしようとしていたことが重なっていたようです。

問題を解決する際、暴力に走る人がいてそれに巻き込まれる人がいて、そんな自分の過ごした状況を映画という表現手段で提示したかったのでしょう。そこを吐き出さなければその場所を去り次に進めない。スコセッシ監督のそんな叫びが聞こえてくるようです。

ドアをノックするのは誰?』と『ミーン・ストリート』はセットとして考えるべき作品だとおもいます。登場人物たちの時間的経過。そしてスコセッシ監督の映画監督としての成長。

ミーン・ストリート』の日本公開は1980年で、『タクシー・ドライバー』が1976年ですから『タクシードライバー』が成功してスコセッシ監督の映画ということで公開されたのでしょう。ロバート・デ・ニーロとハーベイ・カイテルも出ていますし。

スコセッシ監督の作品の場合、監督の宗教性が問題になるようですが、そこはよくわかりませんので、スルーさせてもらっています。偶然にもスコセッシ監督の初期作品にめぐりあえたのはラッキーでした。

そしてこの時期から短い期間ですが、ハリウッドでの監督主導の映画が誕生していく時代でもあるのです。

追記: 映画『カムバック・トゥ・ハリウッド』(2021年・監督・脚本・ジョージ・ギャロ)は、1974年のハリウッドを舞台にしています。借金だらけのB級映画のプロデューサーがロバート・デ・ニーロ。死にたいと思っている老俳優がトミー・リー・ジョーンズ。映画大好きで映画製作にお金を貸すが取り立ても厳しいギャングがモーガン・フリーマン。映画に一途だと思っていたプロデューサーが詐欺を思いついたためにおかしなことに。映画の中で上映反対のデモまでされた映画『尼さんは殺し屋』が最後の最後に紹介されるのが粋なサプライズです。ジョージ・ギャロ監督が、大学時代『ミーン・ストリート』をみて映画学科に変更したといいますから縁がありました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です