意外なところで楽しい発見

友人から借りた本を早く読むように催促され慌てて開いたら楽しいことが。(「舞台の神に愛される男たち」関容子著)

役者の柄本明さんが銀座生まれ。それも聖路加病院で誕生している。5、6歳頃銀座から引越しされてしまった。新橋演舞場そばのかつての築地川でボートに乗ったし三原橋の映画館にも覚えがあると。お父さんが殿山泰司さんと泰明小学校の同級生。お母さんは歌舞伎が好きで、両親の映画の話を聞きつつ育ったようである。新橋演舞場での「浅草パラダイス」のときなど銀座生まれのアドリブもなく、筋書きも買わなかったのでこの本に出会うまで全く知らなかった。柄本明さんと和泉雅子さんは同じくらいの年齢である。幼少の頃の和泉さんの探検場所はお聞きしたので柄本さんの探検場所をお聞きしたいものである。お二人がそれぞれの世界観で銀座をちょこちょこ走り回っている姿を想像しただけで楽しくなってしまう。どこかでお二人はニアミスしていたであろう。

殿山泰司さんの人生を新藤兼人監督が映画「三文役者」で表したが殿山さん役は竹中直人さんだった。映画好きの柄本さんのお父上も殿山さんの映画は沢山観られたことだろう。

加藤武さん。この方は歌舞伎通で有名である。生まれが築地で泰明小学校。歌舞伎座の前を通って通学していたのであろう。戦時中、小学生は集団登下校させられ同じ班の下級生に澤村田之助さんがいて、ツー・カーで歌舞伎の名セリフをやりとりしている様子が、子供ながらも得意げで夢中である。歌舞伎座が空襲で燃えてるのも目にしていて、焼けたのは第三期歌舞伎座でその後に建ったのが第四期、そして今のが第五期歌舞伎座である。

この本に登場される役者さんは個性的な方が多い。関さんは高校の歌舞伎研究会に入られ、その他沢山の舞台を観ておられるので実現可能となったのであり、嬉しいことに意外な楽しい話を沢山引き出してくれている。役者さんの幼少時代から入り役者や演出家、脚本家、映画監督などへの経過を聴かれていくが、出会った人などの個性や影響力も感じ取れるような引き出し方で、その影響を与えた人についてももっと知りたくなる。

その一人は、関さんが別本にも書かれている勘三郎さんで想像以上に勘三郎さんは他の方たちの舞台を観られていたことがわかる。

坂東三津五郎さんは良き友、良きライバルであったので勘三郎さんが登場するのは当たり前であるが、三津五郎さんが勘三郎さんを見る視点が三津五郎さんならではで、勘三郎さんの芸に対する冷静さも捉えている。お城の好きな三津五郎さんが勘三郎さんに請われて案内したのが福井県にある丸岡城というのも、小さいがきりっとした古城で微笑ましい。例えば赤穂城をお二人に示したら、三津五郎さんは学術的興味から入られるであろうし、勘三郎さんは内蔵助を演じる前にされた、江戸と赤穂を駕籠で何日で行けるかという発想になるのだろうなあと考える。

その他、三木のり平さん、寺山修司さん、三島由紀夫さん等語る人たちが並みの方たちではないのでいつもの照明ではない光りを当ててくれてきらきら光ったり違う光りかたもあったとも取れる。何かを目指す人間が良き仲間を得たりまた反対にどうしても相容れなかったりという確執も垣間見れ、語り口は優しいが痛みも隠さない意外な怖さもはらんでいる本である。だからこそ<意外なところで楽しい発見>が濃密となるのである。

《柄本明・笹野高史・すまけい・平幹二朗・山崎努・加藤武・笈田ヨシ・加藤健一・坂東三津五郎・白井晃・奥田瑛二・山田太一・横内謙介》

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