柿葺落四月大歌舞伎 (一)

新しい歌舞伎座で一番拍手を贈りたいのは三階席から花道の七三(すっぽん)が見えることである。ここが見えるのと見えないのでは物によっては芝居が半減するものもある。今回の観劇で感じたのは、役者さんたちが気持ちを引き締めていることである。これだけの数の歌舞伎役者が同じ舞台に立つということは滅多にあることではない。この機に、幹部たちは芸を伝えようとし、次の世代はそれをしっかり受け止めようとの気迫がある。それはやはり、新しい歌舞伎座出演を成し得なかった方々への鎮魂と魂の引継ぎであろう。華やぎの中にも静謐さがある。

【第一部】 一、壽祝歌舞伎華彩(ことぶきいわいかぶきのいろどり) 鶴寿千歳

宮中での祝いの舞と新歌舞伎座の祝いを掛け合わせた舞踊で厳かな中にも艶やかさがある。染五郎さんの春の君と魁春さんの女御の踊りの後、権十郎さんと高麗蔵さん率いる宮中の男性と宮中の女性10人が並ぶと華やかさが増し、そこに長寿の象徴の藤十郎さんの鶴が降り立つと、新歌舞伎座開場を供に寿ぐ気持ちにさせられる。染五郎さんは先月一條大蔵卿を演じられているので一層貴族の優雅さが増したように観える。衣裳の扱いも美しい。おそらく若い役者さんで初めて着る衣裳の方もあるであろうが、一ヶ月その衣裳と付き合えると云う事は体に馴染むわけで貴重である。金の鶴を飾った冠に薄物の白の衣裳でゆったりと鶴の形を見せつつ踊る藤十郎さんのほんのりした柔らかさがほのぼのとさせてくれた。

二、お祭り  十八世中村勘三郎に捧ぐ

勘三郎さんゆかりの役者さんたちが明るく踊ってくれる。幕が開き浅黄幕のとき「十八代目中村屋」のお向こうさんの声がかかる。浅黄幕が下りると三津五郎さんの鳶頭を中心に、橋之助さん、彌十郎さん、獅童さん、亀蔵さん。芸者衆が福助さん、扇雀さん。若い者、手古舞と賑やかである。途中勘九郎さんと七之助さんと、なんと勘九郎さんの息子の七緒八くんが花道から登場である。予想外のサプライズである。舞台真ん中の床几に行儀良く座り動じることなく、開いた扇を持って動かしたりして皆の踊る様子などをみている。驚いたのは勘九郎さんが踊りの最後右袖を左手で少し上げ見得を切ると七緒八くんが同じように座ったままで可愛らしく見得を切ったのである。今回、この一番小さい七緒八くんから始まり、国生くん、宗生くん、宜生くん、虎之介くん、金太郎くん、大河くん、玉太郎くんがきちんと役にはまり子役としての力量を示してくれた月でもあった。

三津五郎さんと巳之助さんがおか目とひょっとこのお面で踊るのを観ていると、三津五郎さんと勘三郎さんの「三社祭」がふっと浮かぶ。勘九郎さんが左足で立ち右足をたっぷり引いて間を置き大きく前にせりだしいい形に決まると、勘九郎さんが膝を痛めたとき勘三郎さんが「俺さらはなくても踊れるよ。代わろうか。」と言われてた映像を思い出す。七之助さんは、厳島での連獅子の時毛振りを注意されていた。もっともっと勘三郎さんに怒って注意して欲しかったと思う若い方は多いであろう。怒られてもこの人ならと思える関係はなかなか得られるものではない。そんな事をつらつら考えつつ「お祭り」を楽しませてもらった。

 

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