映画 『衝動殺人 息子よ』 と 映画 『チョコレートドーナッツ』

映画『衝動殺人 息子よ』と今公開中の映画『チョコレートドーナッツ』は、法律が絡んでくる。

木下恵介監督の『衝動殺人 息子よ』は、小さな幸福の中にいた家族が、息子を「殺すのは誰でもよかった」とする人間に殺されてしまう。息子の父親は、悲嘆の底から這い上がり、被害者遺族の救済はないのかと、同じ被害者遺族を尋ねる。そして殺されたことによるその後の家族の生活の困窮を知り、被害者家族の補償問題としての法律を作ってもらうべき運動を起こすのである。被害者遺族側の人の死をお金に換算することへの心苦しさや、思い出すのも辛い人々の気持ちを伝えつつ、救済の権利を粘り強く静かに伝えていく。この映画も一つの後押しとして、「犯罪被害給付制度」が制定される。

『チョコレートドーナツ』も、実話である。母親の育児放棄で、母親は薬でつかまってしまい、そこに居合わせた住人とそのパートナーが、一人になった少年を引き取り家族として小さな幸福の時間の中にいる。少年はダウン症で、ドーナツとハッピーエンドのお話が大好きである。ただこの少年の新しい保護者はゲイのため、世間がこれを認めようとしないのである。そして法律を操るのも人間であるから、その法律の解釈を使い、この家族は引き裂かれてしまう。何の見返りも求めない新しい家族が法律の枠の外で、心の結びつきでささやかな素晴らしい時間を持っていたのである。

どちらの映画も、マルコ少年の好きなハッピーエンドのおとぎ話ではない。法律が出来ても、心の全てを救うものではないし、法律が全ての愛を守るものではない。だからこそ、法律の一人歩きはよく見定めなくてはならないのである。

『衝動殺人 息子よ』の父親役の若山富三郎さんは、ヤクザ役から被害者の父親役という周囲が驚く転身である。母親役の高峰秀子さんは、この映画で引退される。高峰さんは、復員した池部良さんを再び映画に誘い池部さんの役者復活のきっかけを作っている。ヤクザ映画の役者さんが、その後、性格俳優になられたり、その反対だったり、池部さんのお父さんが復帰の時に言われたという「買われたら売る」が的を射ている。「売る」からには、つまらぬ包装紙でおおわれていないかを見極めるのは、商品を買うこちらのお客である。包装紙の好きな役者さんもいますし。

近頃、昭和の映画が、レンタルで多く見れるようになり、懐かしさではなく、一人の監督さんや役者さんの流れを検討したり、今の映画と比較できるのも嬉しいことである。そして、この映画にこの役者さんも出ていたのだと気がつくのも楽しい。

『衝動殺人 息子よ』には、多くの役者さんが出られていた。

出演/若山富三郎、高峰秀子、田中健、尾藤イサオ、高林早苗、大竹しのぶ、高村高廣、藤田まこと、近藤正臣、吉永小百合、加藤剛・・・・

監督・木下恵介/原作・佐藤秀郎/脚本・木下恵介、砂田量爾/撮影・岡崎宏三/音楽・木下忠司

 

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