高倉健さんの遠い旅立ち

奈良の柳生街道 (2) の コメントで『宮本武蔵』については、また書く機会があるかもしれないとしたが、その一つが高倉健さんの佐々木小次郎である。初めて見たとき多少違和感があった。錦之助さんは、歌舞伎から入って時代劇に精通していた役者さんであり、宮本武蔵は、恋にも悩み、様々なことに悩みつつ剣の道を進む人である。それだけに作戦もたて、人の心理も読む人である。佐々木小次郎は違う。自分の剣の強さを信じ切っている。再度見ていてそこが小次郎らしいところなのだと思え、派手な衣装、長い刀それが似合う高倉健さんの小次郎が納得できた。

『宮本武蔵 二刀流開眼』が1963年、『一乗寺の決斗』が1964年、『巌流島の決斗』が1965年である。そして、内田吐夢監督の『森と湖のまつり(1968年)がレンタルショップで目に飛び込んできた。武田泰淳さんの原作である。この映画があるとは知らなかった。それも高倉健さんが主演である。さっそく借りたが、時間がなく半分を見て、奈良の<山の辺の道>への旅にでる。奈良から帰って来てから残りを見る。

雄大な北海道の自然のなかで、アイヌ民族の血の問題と差別問題が描かれている。高倉さんは、アイヌ民族の純血として、アイヌの人々のために基金を力ずくで集めようとする。ところが、彼には、和人の血も混じっている混血であった。三国連太郎さんとの決闘をする場面は迫力がある。さすが、内田吐夢監督である。アイヌの人々の宗教的儀式も取り入れながら、自在な自然描写。野生児的な主人公を若い高倉健さんは演じ切っている。新鮮な映画俳優、高倉健さんを感じた。

その野生児を内田監督は、今度は、武蔵の相手の小次郎にするのである。この野生児と佐々木小次郎の合体が、銀幕のスター・高倉健さんの誕生のように思えた。そんな時、健さんの突然の訃報である。驚きしかない。

『あなたへ』は、見ていない。なぜか、評判でありながら見ていないのである。だから、高倉健さんの<遺作>は私の中には未だ無い。しばらくは見ないであろう。

数か月前、高倉健さんの五代前の祖先である小田宅子(おだいえこ)さんの著書を古本屋で見つけた。『姥ざかり花の旅笠 ー 小田宅子の「東路日記(あずまじにっき)』である。田辺聖子さんが、読み解いてくれている。そもそもは、高倉健さんが、<うちの祖先の人が、こういう手記をものしているが、これをわかりやすく読めるようにならないものだろうか、面白そうなのだけれど>と言われたのが、色々な人の縁で田辺さんのもとに届いたらしい。時間が出来読める日を楽しみにしていた。

高倉健さんは、借りておられは肉体は返され、遠い遠い旅に発たれてしまわれた。まだまだ、新鮮な高倉健さんにお逢いできるような気がする。到底納得できないが、手を合わせさせていただく。

合掌。

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