歌舞伎座 11月 『勧進帳』『寿式三番叟』

歌舞伎座11月は 「吉例顔見世大歌舞伎」 初世松本白鸚三十三回忌追善 である。やはり、染五郎さんの初役・弁慶の『勧進帳』からであろうと思うのであるが、気の利いたことが書けそうにない。一口で云えば、負けず嫌いの弁慶であった。聞きなれた長唄を耳にしつつ、富樫の出。そして、花道での弁慶の第一声は。声も大丈夫である。姿も良い。

富樫に訊ねられ、東大寺勧進のためと言われたとき、こちらが、奈良の見て来た東大寺が崩れた。そうなのである。あの東大寺も焼失するような戦があり、その戦で活躍した義経が兄に追われているのである。

弁慶はその義経を富樫から守るのである。富樫が幸四郎さん、義経が吉右衛門さんである。お二人ともその役に妥協はされないから、染五郎さんは、弁慶を演じつつ、富樫の幸四郎さんと義経の吉右衛門さんとも相い対いすることとなる。観ていてもお二人は大きな役者さんである。染五郎さんは弁慶に成りきり、富樫にぶつかり、義経を守る。身体は形を作り、想いは負けるものかと気迫を感じる。

義経、四天王(錦吾、友右衛門、高麗蔵、宗之助)達を先に送り、ラスト花道で、幕の内の富樫に頭を下げ、それからゆっくりと天(客)に向かって頭を下げるが、染五郎さんはその動作があるかないかわからぬ速さで、前方を見つめ飛び六法で進んでいく。その日だけだったのであろうか。まだまだ気は抜かない、抜けませんと言われているようであった。まだ、染五郎さんの弁慶とはなっていないと思う。まだ朝日のまぶしさを感じただけの出発とおもう。

金太郎さん、間を外さずしっかり太刀持ちを務めていた。この舞台の空気、糧となり活かされる時がくるのであろう。

十一月歌舞伎座は、『寿式三番叟』から始まる。翁(我當)と千歳(亀寿、歌昇、米吉)が天下泰平、国土安泰、を祈ると、三番叟(染五郎、松緑)が五穀豊穣を祈って舞う。染五郎さんは、軽く操り三番叟の雰囲気も出され、楽しそうに解放されたように踊られる。松緑さんは静かに神に祈る者として踊る。この違いが面白かった。松緑さんは思いの外押さえられていて、あえて、競い合う二人三番叟にはしなかった。経験者として夜の部の染五郎さんの弁慶のことを思われているように感じたのは、うがった詮索であろうか。我當さんを筆頭に、厳かな舞台であった。

踊りらしきものはこれだけで、今月の歌舞伎座は重厚な出し物が並ぶ。その中で、意外にも、菊五郎さんのいがみの権太が、憎めない権太となっていた。

 

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