新橋演舞場 『笑う門には福来たる~女興行師 吉本せい~』

吉本興業の土台を作った吉本せいさんをモデルにしている山崎豊子さん原作『花のれん』のほうは、映画、テレビで見ている。映画は、豊田四郎監督で、淡島千景さんと森繁久弥さんの名コンビである。テレビのほうは、宮本信子さんで夫が死んだ後、心の支えになってくれる伊藤友衛役が藤竜也さんで、渋い素敵な役者さんになったと思って見た記憶がある。

『花のれん』は、吉本せいさんの手腕を主軸にしているが、『笑う門には福来たる』は、矢野誠一さんの『桜月記』を原作にしていて、せいさんと多くの芸人さんとの関係が交差していて、膨らみを持った分だけ、散漫になったふしがある。

関西の演芸史を盛り込んでの芝居である。それも、明治、大正、昭和の戦争をはさんで吉本せいさん(藤山直美)が亡くなるまである。それを、休憩を入れて三時間半、実質二時間半で繰り広げるのである。数々の芸人さんを映像で写し、如何に多くの芸人さんを抱えていたかを思い知らせてくれるが、その一人、一人で物語が出来てしまうような方々である。話しの中にその方々のエピソードなどが出てきて、あの芸人さんのことだなと思いいたるのである。エンタツ・アチャコ、ワカナ・一郎、ミヤコ蝶々さんら、それこそ蝶々のごとくヒラヒラと飛ばしてくれる。

もう少し、吉本せいさんと芸人さんとの関係を整理して、その絆の強さを押し出して、ラストにもっていったほうが、一貫性が強くなったように思える。ラストがあっての芝居である。桂春団治さん(林与一)と桂文蔵さん(石倉三郎)があの世から迎えにくるのである。

桂文蔵さんは、どんな噺家さんであったのか、実際には分からない。ただ、芝居の中では、せいさんの手を焼かせた芸人さんの代表である。春団治さんは、せいさんが全ての寄席の売り上げをかき集めて勝負をかけ、自分達の寄席へ呼びよせた芸人さんである。文蔵さんは舟で、春団治さんは、真っ赤な人力車で迎えにくる。せいさんは、赤い人力車が良いといって、その赤い人力車に乗り、通天閣に見守られ、ゆうゆうとあの世への花道を渡っていくのである。このラストの納め方によって、この芝居は救われている。

夫(あおい輝彦)よりも興行師としての才能があったせいさん。弟(市川月乃助)との芸人に対する考え方の違いを感じるせいさん。息子と笠置シズ子さんとの結婚を許さなかったせいさん。そういうことをも盛り込んでの構成である。大盛りである。

役者さんも揃い、皆さんきちんと収まっているが、皆さんが平均的に良い人ばかりというのも、味を薄めているところである。その中で、藤山直美さんは、喜劇役者としての見せ場を探され、健闘されている。近年直美さんは、父上の藤山寛美さんの役から距離を置かれ、喜劇役者・藤山直美の道を模索されているように思える。おこがましい言い方ではあるが、孤独な闘いに挑んでおられるように思える。繋ぐのと同じように、違う道を歩くということは、厳しい道のりである。ここまでの土台をもとに、突き進まれるのであろう。

仁支川峰子、川崎麻世、大津嶺子、東千晃、鶴田さやか、いま寛大

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です