新宿区落合三記念館散策

新宿中村屋のビル三階に<中村屋サロン美術館>がある。この案内チラシもどこかで手にしたのであるが何処であったのやら。そして、この<中村屋サロン美術館>で、<佐伯祐三アトリエ記念館>のチラシを手にした。そのチラシの裏に、落合記念館散策マップが載っており、<中村彝(つね)アトリエ記念館><佐伯祐三アトリエ記念館><林扶美子記念館>の三館をまわるマップである。

中村屋サロンというのは、明治から大正にかけて、中村屋が若き芸術家のサロンのような役割を果たしていたのである。中村屋の相馬愛蔵の郷里である穂高の後輩・荻原守衛(碌山)が、中村屋の近くにアトリエを作り、そこに彼を慕う若き芸術家が集まってきた。このサロンの中心は萩原守衛さんであるが、それは置いておく。その中に、画家の中村彝さんがいた。

佐伯祐三さんの足跡を訪ねてパリまでいった、佐伯祐三大好きの友人が、山梨県立美術館の『佐伯祐三展』に行けなかったので、この散策に誘うと是非という。

佐伯祐三さんは大阪生まれで、大阪の中之島に佐伯祐三の専属部分を持つ美術館を建設したいとして、その準備機関が資金調達の意味もあって『佐伯祐三展』を開催しているようである。大阪でも開催され、その時は友人も大阪まで出向いたらしい。大阪の中之島では、大阪市立東洋陶磁美術館は好きである。良いところなので、新しい美術館が出来、佐伯祐三の常設もできるなら喜ばしいことである。

山手線の目白駅から先ず中村彝さんのアトリエに行く。中村彝さんは、中村屋の長女俊子さんを好きになるが、反対され、失意のもと下落合にアトリエを建て、肺結核のため若くして亡くなってしまう。俊子さんは、中村屋がお世話していたインド独立革命家と結婚するが、彼女も20代で亡くなっている。このあたりの事情は中村屋サロン美術館で知っていたので、ここが、彝さんの孤独に苛まれたアトリエなのだと光の入り方などを確かめる。アトリエの庭に椿が咲いていて、係りの人に尋ねると、彝さんは椿が好きで大島にも行っているとのこと。調べたら彼の記念碑が大島にあった。大島ではそんな情報は何も掴まなかったので驚きである。

ここでだったと思うが、佐伯祐三さんが中村彝さんにも影響を受けていたとあり、繋がって友人には喜んでもらえた。

次に佐伯祐三さんのアトリエに向かう。友人は佐伯さんの絵は頭に入っているので、この周辺の風景画と現在の写真が載っている資料に感動していた。ボランティアの方の手によるものであろう。映像やパネルなどから、友人の解説を聞き、一通りの絵は見ていたので良く理解できた。佐伯さんも結核のためフランスで亡くなるが、神経も侵されてしまう。

友人が思うに、佐伯さんは結核を遺伝性の病気と思い、自分の命の短いことを感じていて生き急いだのではないかという。娘さんも幼くして結核で亡くなっている。感染してしまったのであろう。奥さんの米子さんは二人の遺骨を抱え、佐伯さんの絵とともに帰国するのである。その後画家として生きられる。友人と米子さんの絵を観て、なかなかよね!と感嘆する。友人は持っていない図録を購入。こちらもかなり、佐伯祐三さんに精通してきた。志し半ば亡くなられていて、これが佐伯祐三だというところに到達する前に思える。到達点などはないのであろうが。

昼食を済ませ林夫美子記念館へ。私は何回か来ている林夫美子記念館であるが、説明されるボランティアのかたが変わると、また新しい発見があって楽しい。入口に昭和初めの新宿駅前の地図があり、友人のお父さんは田舎から出てきたとき、新宿の駅前に住んだということで、父に帰りに地図を買って行こうかなと言っていたが、帰りに何も言わないので買わないのだなと声もかけなかった。帰り路途中で、急に、地図を買って来るから待たないで先に行ってていいわよという。

彼女は、どこかうわの空だったのかも知れない。きっと佐伯祐三さんの世界の中だったのであろうなと感じたので、待たないで帰ることを告げる。何かにこだわっている時は、一人もいいものなのである。

後日、他の行きたくて行けなかった友人に地図を渡したら、かなり早い段階で行ってきたという知らせを貰った。この散策は手頃でよい企画であった。

驚いたことに、劇団民芸が10月頃、中村彝さんを中心にした『大正の肖像画』(作・吉永仁郎)を上演するらしい。新作のようである。忘れないでいれば良いが。

もう一つ、気がついたことがある。萩原守衛さんが、<文覚>像を作っているのである。文覚とは、袈裟御前を夫と間違えて殺めてしまう遠藤盛遠である。<碌山美術館>では気が付かなかったが、<文覚>の作品を通しての萩原守衛さんの心のうちも透かし見ることができる。映画「地獄門」や「平家物語」に接していなければずーっと気がつかなかったであろう。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です