超個性派 ベティ・デイヴィス

ベティ・デイヴィスの映画は『八月の鯨』が先なのか、『イブの総て』が先なのかはっきりしないが、その二本は見ている。今回『痴人の愛』、『何がジェーンに起こったか』を見て、再度『イブの総て』を見た。強烈な個性である。

『痴人の愛』は、原作がサマセット・モームの『人間の絆』である。足の不自由な医学生・フィリップ(レスリー・ハワード)が、レストランのウエイトレス・ミルドレッド(ベティ・デイヴィス)に恋をするが、ミルドレッドは感情に任せた奔放な生き方をする。都合の良い時にフィリップに頼り、また自分の思うままの生活に戻り、身を崩し病死してしまう。フィリップのほうを見ると、翻弄されつつも、じっとミルドレッドを見つめ続ける『人間の絆』とも思える。

ベティ・デイヴィスはこの悪女役で認められる。大変特徴ある演技の仕方である。目線、身体のみような捻じれ加減、感情の爆発など演技派というよりも、その役に憑りつかれているようである。

もっと憑りつかれているのが『何がジェーンに起こったか』である。少女時代にスターであった妹のジェーン(ベティ・デイヴィス)と妹が売れなくなってから映画スターになった姉のブランチ(ジョーン・クロフォード)。立場が逆になった姉妹が、今は引退して二人で暮らしている。姉のブランチは、車の事故のため車いす生活で、妹のジェーンが面倒をみている。その二人の生活が、まさしく<ジェーンに何が起こったか>であって、異常な状態となっていくのである。二大女優のぶつかり合いである。お互いに過去の自分が忘れられず、妹のベティ・デイヴィスのドンドン過去に引きずり込まれて狂気じみていくところが凄まじい。

驚くべきことは、車の事故の真相をブランチが語るところである。ずうっと真相を語らずに、ブランチはジェーンを支配しようとしていたのである。恐るべき展開と演技の映画である。

『イブの総て』は、再度見て、アン・バクスター演じる大女優の付き人がのし上がっていく姿には腹立たしさと人間の卑しさを感じてしまった。大女優がベティ・デイヴィスで、これまた大女優の我儘さを威厳をもって上手く現している。その大女優に取り入り付き人となり、陰で献身的に仕える。周囲の信頼も得ていきながら自分の味方に組み込んでいき、その全てが実は自分の名を売るための策略だったのである。よくある話しであるが、ベティ・デイヴィスの鼻持ちならない態度とアン・バクスターの可憐さが大逆転するという怖さの映画で、それを知った時のベティ・デイヴィスと同じ気持ちでアン・バクスターを見てしまった。

この映画は、まだ知られていなかったマリリン・モンローが女優の卵として出演しているのでも知られている映画である。

晩年の『八月の鯨』では、リリアン・ギッシュと共演するなど、ベティ・デイヴィスは共演者と臆することなく渡り合う。渡り合うのを楽しんで、役に憑りつかれていくように感じる。その辺のプロ意識は、時にはスパイスとして、刺激的時間を提供してくれる。

『痴人の愛』のレスリー・ハワードが、どこかで見ているのだがと思っていたら、『風と共に去りぬ』のアシュレーであった。レスリー・ハワードの沈着さが、ベティ・デイヴィスの超個性的演技を受けてくれたから上手くいったとも言える。

また何処かで、違う映画でベティ・デイヴィスに逢いたいものである。

今回は、もう一つ収穫があった。「ベティ・デイヴィスの瞳」という歌があるのを知った。キム・カーンズという女性歌手が歌っていて、そのかすれた声が、この歌の名前にぴったりなのである。

京橋の東京国立近代美術館フイルムセンターの展示室(7F)で『シネマブックの秘かな愉しみ』をやっている。映画関係の本の紹介である。手に取ることはできないのであるが、読みたくなるような本が沢山展示されている。そして、引き出しを開けると資料が見れますとあるので、適当に開いたら、和田誠さんの『イブの総て』のベティ・デイヴィスのイラストと、簡単な映画の紹介のぺージが開かれて現れた。何の表記もない一番上ではない適当に開けた最初の引き出しである。あまりのご縁に笑ってしまった。

 

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