歌舞伎座7月『南総里見八犬伝』『与話情浮名横櫛』『蜘蛛絲梓弦』 

『南総里見八犬伝』の<芳流閣屋上の場>と<円山塚の場>である。<芳流閣屋上の場>は、犬塚信乃と犬飼現八がお互い八犬士として仲間であることを知らずに、芳流閣の屋根の上で相争うのである。歌舞伎では、舞台上の屋根が二人を乗せたまま後ろへどんでん返しとなり、激し立ち廻りとともに見せ場の一つである

犬飼現八の市川右近さんは、こういう動きは得意である。犬塚信乃の獅童さんは得意そうでいて意外と身体が硬いのであるが、動きつつの首から肩の線が良くなった。

<円山塚の場>は、八犬士が一同に会するのであるが、暗闇の想定で、暗闇の中を探りつつ動くだんまりの場である。修験者の犬山道節の梅玉さんが出と引っ込みに統率力を見せる。犬塚毛野の笑也さんの古風な妖艶さがいい。犬田小文吾の猿弥さんの相撲取りとしての動きが良い。犬川荘助に歌昇さん、犬江親兵衛に巳之助さん、犬村角太郎に種太郎さんで、市川右近さんと獅童さんが加わり一つ一つの動きを丁寧に扱い、退屈のすることないだんまりであった。

浜路の笑三郎さんと網干左母二郎の松江さんの殺しの場も形通りに納まった。弘太郎さんと梅丸さんとの場面も足並みそろって行儀よかった。梅丸さんの手の置き方からくる高貴さに驚いた。これ一つで違うのである。

『与話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)』は、あまりにも有名なお富さんと与三郎の<見染め>と<源氏店>である。まさしく見染めである。玉三郎さんのお富が粋で、鼻緒が黒であった。与三郎の海老蔵さん、お富に見惚れて羽織を滑り落とすのであるが裏地には牡丹が描かれていた。ただ、羽織落としの段取りが見えてしまった。こちらの目が意地悪になったのであろうか。

<源氏店>での、お富の湯からの帰りの小さなぬか袋の赤と洗い髪の大きな横櫛が何んとも色香を立ち込めさせる。番頭藤八の猿弥さんはさりげなく居座るところがよい。蝙蝠安の獅童さんは、こういうクセのある役になると頭角を現す。それと対称的な落ちたにしてはまだ色男の美しが抜けない与三郎を引き立たせる。海老蔵さんは、切られ与三郎の赤い傷あとを見せつつ、拗ねた感じと怨みをたっぷりでありながら未練の残る様を上手く出した。和泉屋多左衛門の中車さんは玉三郎さんの、お富の兄としては貫禄不足であるが、おさまっていた。九團次さんの身体の上下のバランスがよくなった。

裏世界の闇に開いた華麗な風景となった。

『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』は分りやすく楽しい変化舞踏であった。猿之助さんの六変化の舞踊を楽しめ、終盤戦の海老蔵さんの平井保昌の押し戻しが入っての舞台は締まりきっちりと幕となった。

猿之助さんの女童からして、その特色が際立ち踊りも面白い。そして頼光を守る四天王の坂田金時(市川右近)と碓井貞光(獅童)をたぶらかし、薬売り、新造、座頭、傾城と踊り分けて行く。やはり猿之助さんの動きは楽しませてくれる。引っ込みや出も、澤瀉屋のケレンを上手く使い、そのことがかえって変化物の軽快さを増してくれる。四天王の渡辺綱の巳之助さんと卜部季武の喜猿さんがいい。このコンビの衣裳の色も素敵である。巳之助さんの下半身がしっかりしてきた。

なぜ海老蔵さんの平井保昌なる人物がでてくるのかよくわからないが、よくわからないのも歌舞伎の内である。衣裳ばかり褒めるようであるが、この衣装の色どりが綺麗である。モダンなさすが荒事の成田屋である。

猿之助さんの蜘蛛の糸も綺麗にまき散らされ、蜘蛛の精となっての子分の蜘蛛の数も少なく、品のある源頼光の門之助さんと四天王との立ち廻りを多くしたのが優雅さも加わり舞台を大きくした。

珍しく舞台写真を眺めたが、海老蔵さんが抜けていたので購入はやめた。七人写ったのでは一人があまりにも小さくなるのでまあ無理ではある。

 

 

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