映画『日本誕生』と『ハワイ・マレー沖海戦』(1)

この二つの映画は亡くなられた原節子さんが出られていて、特撮監督が円谷英二さんであるという共通点である。

『日本誕生』は、スパー歌舞伎『ヤマトタケル』を観ていれば流れがわかる。ヤマトタケルを主軸にしている。そこに、アマテラスオオミカミの天の岩戸に隠れられた話と、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治したとき、オロチの尾から取り出したのがクサナギノ剣であるという事が挿入されている。

アマテラスオオミカミが原節子さんで、その出現はすんなりとアマテラスと認めてしまうことができ、大らかな美しい笑顔なのである。

踊るアマノウズメノミコトが乙羽信子さんで岩を空けるのが朝汐太郎さん。この場面、名役者さんたちが万の神として、もったいないほどの脇役に徹している。腕の振るいどころがないのが気の毒なくらい。(有島一郎、榎本健一、加東大介、小林桂樹、左卜全、三木のり平、柳家金語楼)

景行天皇(二代目中村鴈治郎)の時代、兄を追放した弟のオウスノミコト(三船敏郎)は、父の天皇に命ぜられクマソ征伐に向かう。見事クマソの兄弟を倒す。クマソの弟のタケル(鶴田浩二)は、オウスにヤマトタケルと名乗って平和にしてくれと遺言をのこす。ヤマトタケルの誕生である。

しかし今度は、父・天皇から東国征伐を命じられてしまう。伊勢神宮の宮司を務める叔母(田中絹代)は、天皇からだとクサナギノ剣をタケルに渡す。クサナギノ剣は、スサノウノミコトがヤマタノオロチ退治の際、その尾から取り出した剣である。

ヤマタノオロチ退治の場面も挿入され、三船敏郎さんは二役でスサノウノミコトもつとめる。ただこのとき、オロチとの闘いは合成であるから、三船さんはこれまた気の毒なくらいオロチに向かって両腕を上げたりするだけであったりする。尾に乘って斬りつけクサナギノ剣を出す時にやっとリアルな演技ができる。しかし、虚しい動きを力一杯表現する三船さんを観ていると、その一生懸命さにいい人だなあと感心してしまった。現場の大変さを受けて立っているようであった。この場面は特撮の見せ場でもある。

クサナギノ剣も叔母がタケルへの同情の噓であったことがわかりタケルは大和に引き返す。その途中で、タケルを邪魔者とする大伴一族の兵に敗れ、ヤマトタケルは死と同時に白い鳥となって飛び回る。天地の自然を動かし、火山の爆発、洪水などを起こし大伴一族を滅ぼしてしまうのである。

ここが特撮の力の入れどころである。地割れのシーンがあり人がそこに落ちて行くがその撮影について『円谷英二の言葉』(右田昌万・みぎたまさかず著)で触れている。

<人形では面白くないので、本当の人間に落ちてもらいます>(円谷英二の言葉)

大きな地面を三つ作り、それを合わせておいて、群衆が走ってきたらそこでトラック5台くらいでそれぞれの地面を別方向に引っ張って地割れをつくり、そこに落ちていくという特撮だったとある。

この場面は、明らかに合成しているというものではなかったので、リアルで不思議であったが納得である。

とにかく特撮のあらゆる技術が網羅されていて、東宝の俳優さんが総出演といった豪華映画である。神話でもあり、特撮も多いので物語の楽しみが覚めさせられる箇所も多いが、ああやろうかこうやろうか、どうしたら演技者と特撮が一体となれるかなど考えかつ工夫していた姿がにじみ出る映画でもある。

監督・稲垣浩/脚本・八住利雄、田中友幸/撮影・山田一夫/音楽・伊福部昭/美術・伊藤熹朔、植田寛

出演・志村喬、平田昭彦、宝田明、久保明、東野英治郎、田崎潤、藤木悠、天本英世、杉村春子、司葉子、香川京子、水野久美、上原美佐

 

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