無名塾『おれたちは天使じゃない』

驚いたことに、全国公演の途中である。東京の「世田谷パブリックシアター」での公演は、3月5日から3月13日までで、全国公演の真ん中あたりである。

仲代達矢さん。83歳。役者人生64年。無名塾創立40周年である。

『おれたちは天使じゃない』は映画で観ていて愉しみだったのである。ロバート・デ・ニーロ主演のほうで、これまた驚いたことに、あのハンフリー・ボガート主演の映画もあったのである。ボギーの喜劇は想像できないが、仲代さんの喜劇を近年になってたくさん観ることになるとは、これまた想像していなかったことである。

映画と舞台のほうは、設定がちがうらしい。違っていても良いのである。面白かったというだけの記憶しかないのであるから。芝居のほうは、これまた愉しかった。

訳・演出は丹野郁弓さんである。(作・サム&ベッラ・スピーワック)

囚人が、一般家庭の家の屋根の修理をするのである。話しの様子から、それが当り前のようである。舞台となる南米にあるこの町は、フランス領であった時代で、フランスの犯罪者の流刑地でもあったとか。

雑貨屋で労働している囚人は三人である。ジョゼフ(仲代達矢)、ジュール(松崎謙二)、アルフレッド(赤羽秀之)。このトリオが、屋根の上から雑貨屋の窮状を聴き何んとかできないものかと足りない部分をお互い補いながら動きだすのである。

一番ひょうきんなのが、詐欺師の仲代さんである。なんせ手八丁口八丁で身体もよく可笑しなフェイントをかける。三人でこうすれば良いと以心伝心。それぞれ役目はすぐ実行。結果はよいのかどうか。なんせ訪問者しだいである。三人にとっては当たり前のことが、観ているほうにはとんでも行動であるが、雑貨屋一家は三人とともにクリスマスイブを過ごすのである。

雑貨屋一家も夫婦と娘の三人で、一家に対するトリオの一人一人の担当もなんとなく決まってくる。そして、トリオのそれぞれの人間像も。

三人は自分たちの罪から逆算しつつ、雑貨屋一家の幸福を換算していく。トリオの三角形は時々変形し、危うい形となるが、思いは一つとばかりにしっかり三角形を維持していくのである。

雑貨屋に訪れる人があるたびにトリオは雑貨屋一家のためにどうすれば良いかを考え行動する。訪問者とトリオの関係はいかなる方向に展開するのか。それは観てのお楽しみということで。

パンフレットに囚人トリオと演出家の懇談が載っている。仲代さんは「いつも苦しんでやってるけど、今回は楽しんで・・・・」と言われているが、それを受けての丹野さんの返答に笑ってしまった。丹野さんの後ろに劇団民芸の宇野重吉さんや滝沢修さんが立っておられるのではないかと思えてしまったのである。続きはパンフレットで。これまた読んでのお楽しみとしておく。笑えなかったとするなら、『ドライビング・ミス・デイジー』以来のお二人の、役者と演出家の恐れ多くも拮抗する楽しい火花を察知されていないからである。

『光の国から僕らのために』のアフタートークのときに、民藝の劇団員が駄目なときは丹野さんから吹き矢が飛ぶとの報告があった。丹野さん「本物じゃありませんよ。」と言われてげんこうを口にあてふっと空気を飛ばされた。丹野さんの愛の激の吹き矢とおもわれる。

観劇者は申し訳ないことに役者さんの苦労は感ぜずに笑わせてもらった。

『バリモア』を観て、アル・パチーノを思い出した。かつてアル・パチーノの初監督作映画『リチャードを探して』を前売り切符を買いながら見逃したのである。さっそく手に入れたがまだかたずけていなかった。『ヴェニスの商人』も手にいれたので、今度こそ見てしまわなくては。

青い縞の服のトリオは、東京が終わると、どこの屋根の上であろうか。演劇一家がお待ちかねであろう。

他の出演者・神林茂典、西山知佐、松浦唯、菅原あき、平井真軌、吉田道広、大塚航二朗

 

 

 

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