DVD『江戸ゆかりの家の芸 坂東三津五郎』

3月以来、歌舞伎について書き込みをしていない。3月の書き込みも中途半端である。なぜか。

それは『金閣寺』にある。この前に観た『金閣寺』が、2015年1月 歌舞伎座1月 『金閣寺』  である。雪姫が七之助さん、松永大膳が染五郎さん。、此下東吉が勘九郎さんである。今年の3月が、雪姫が雀右衛門さん、松永大膳が幸四郎さん、此下東吉が仁左衛門さんである。前者と後者では、芝居の厚みと深さが違うのである。後者を観て、こんなに違いがでてしまうのかと唖然とさせられた。

後者の厚みと深さを表す言葉がみつからなく、歌舞伎の書き込みができなかったのである。

その後も楽しく拝見はさせてもらっているが、そこから回復していない。そんな時、芸の真髄シリーズの『江戸ゆかりの家の芸 坂東三津五郎』のDVDを観たのである。十代目三津五郎さんの踊りで、最初の『楠公(なんこう)』の武張った踊りの形の美しさにくぎ付けになってしまった。素踊りで体の線がはっきりしている。

楠正成と息子・正行の別れと、後半は正成の湊川での足利軍との合戦の様子である。踊りでありながら、芝居の型の一つ一つを見ているような流れである。初めて観る踊りで、最後に三津五郎さんのインタビューがあり、この企画ために初めて踊られたとのこと。今まで身体に蓄積されていたものが、あらためて一つ一つ構築されてできあがった身体表現の美しさにスカッとした気分にさせられた。三津五郎さん56歳の時である。

型にはめられてはめられて、そこから出てくる<気>であり<芸>である。

『大江戸両国花火』、三津五郎さんの振り付けで、武蔵と下総に両国橋が架けられての川開きの花火の様子で、雰囲気がよく映し出されていた。

『流星』『喜撰』は洒脱な踊りでお家芸として得意とするものである。『流星』は、やっと会えた牽牛(けんぎゅう)と織女(しょくじょ)の前に流星が現れ、同じ長屋に住む雷夫婦の喧嘩の様子を面白おかしく知らせるのである。この流星は悦に入って四役をこなして踊りで説明するが、牽牛と織女にとっては邪魔をしてるだけのようで最後にその可笑しさも加わった。

『喜撰』は、先ごろ歌舞伎シネマでもみていたが、DVDのお梶は菊之助さんである。

牽牛は巳之助さんで織女が尾上右近さんで、今月の歌舞伎座がよみがえる。今月の夜の部最後が「男女道成寺(めおとどうじょうじ)」である。白拍子花子が菊之助さんで、白拍子桜子が海老蔵さんという娘二人道成寺の部分もあり、玉三郎さんと菊之助さんの『京鹿子娘二人道成寺』のDVDも見直してしまった。

夜の部の最初の演目『勢獅子音羽籠』では、菊之助さんのお子さんの寺嶋和史くんが、初お目見得である。ものすごく恥ずかしがりやのようで、それでいて舞台に立つのは嬉しいようである。今は僕これしかできないよと菊之助さんに抱かれて手をふる素の和史くんも、これから少しずつ型の世界に入っていくのであろう。

若手は若手で頑張っているなと思う反面、先輩たちのを観ると落差を感じることは、これからも遭遇することと思う。DVDで所化の役者さんの短いセリフの声でも、今のほうがトーンがよくなっているなと感じられるということは、時間が解決していってくれるということである。

 

 

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