映画『助太刀屋助六』『無法松の一生』

助太刀屋助六』は、岡本喜八監督最後の映画でどいうわけか手が伸びなかったのです。音楽が山下洋輔さんで、太鼓の林英哲さんも参加されていると知りこれは観て聴かなくてはと即レンタルして観ました。

痛快!痛快!娯楽時代劇で面白かったです。なぜ観なかったかといえば集中して観た岡本監督映画と比して裏切られるような気分が働いたのですが洋輔さんと英哲さんに誘われて観て正解でした。音楽にも集中でき映像に面白さが加わりました。ジャズ風オハヤシ、オハヤシ風ジャズが効いていました。

ぴたっと音楽が止んで何の音もしなくなったり、音楽が止ると、棺桶のタガを締める音だけが入ったりとか、そのタイミングが映画の面白さと役者さんの動き、特に真田広之さんの絶えず動く身体リズムとも合っているのです。

いつのまにか仇討の助っ人になり報酬を手に入れることを覚えた助太刀屋助六、上州の故郷の母の墓の前で、故郷に錦を飾るほどではないが、「絹を着て帰ったぜ」と亡き母に袖を広げて絹の着物をみせるその光沢の具合が助六の今は多少お金を持っている自分の嬉しさを現わしており、若さの楽天さでこの精神が貫かれます。

着物の左右が女物と男物でそれにも意味があり、自分が嫁を貰うということと、亡き母と名の知れぬ父へのオマージュともとれます。結果的にそれは一つになるのですから。

誰に教わったのでもなく、自分一人で戦うためには何を使えば良いかを常に動き回わり探し回って見つけます。竹ぼうき、竹竿、大八車、石、早桶、などアドリブの音楽と同じで武器、道具、戦い方を音を探すように見つけ出していきます。

故郷に帰って見れば、村は仇討前の静けさ。これは自分の出番と思うが出番もなく、討たれたほうが知らされることのなかった自分の父親でありました。父親の仲代達矢さんと会うのが桶屋で、助六が自分の息子であると知った時、短い時間でありながら息子の性格を見抜き、事情の知る桶屋の小林桂樹さんに父であることを知らすなと伝えますが、このあたりも岡本監督の見え透いた情をださなくても、父が息子の人間性を見抜いており、死ぬ前に逢えた喜びも感じとれるのです。

白木の位牌に自分の戒名を書く父の手が震えます。息子に会って、死の覚悟に未練がでたように思えました。そして字の書けない息子に対して「自分の名前くらい書けるようにしろ」と父親としての言葉を残します。このさりげなさが岡本監督らしさでもあります。そして、一輪の小さな野菊もさりげなくキザでないのが許せます。

息子は仇討を決心しますが、「いやいや落ち着け。仇討ではない、白木の位牌に助太刀するのだ。」錆びた刀を父母の新しい墓石で研ぎ、「刀を研いでいるように見えるだろうが、違うんだなこれが、墓石をみがいているのだ。」と一人でここまで生きて来た自分をとりもどします。

ずらして気持ちにゆとりを持たせ冷静になり、敵討ちは成就します。ただ火縄銃に撃たれて死んでしまう助六が生きていることは映画を観る者が判ってしまうのがこの映画の失点でしょうが、まあこれも許せる範ちゅうとしましょう。音楽に免じて。

助六の真田さんと父親の仲代さんとのずれもいい。どこかずれてずれて、幼馴染とも、桶屋の親子とも、村人とも。それでいながら最後に助六という名前の馬を手なずけている鈴木京香さんのお仙の言いなりになる助六が、どうにかずれからずれてめでたしめでたしであります。

左右の女物と男物の着物が、しっかりと縫わさっていたということでしょう。

岸田今日子さんのナレーションの声も魅力的でした。やはりここで観るべき映画でした。じわじわきます。情で落とせる状況を岡本流の軽さと明るさなのに、そこで終らず何か来るんですよね。

監督・岡本喜八/原作・生田大作(「助太刀屋」)/脚本・岡本喜八/撮影・加藤雄大/音楽・山下洋輔/出演・真田広之、鈴木京香、村田雄浩、鶴見辰吾、風間トオル、本田博太郎、岸部一徳、岸田今日子、小林桂樹、仲代達矢/ミュージシャン・林英哲(太鼓)金子飛鳥(バイオリン)竹内直(リード)津村和彦(ギター)吉野弘志(ベース)堀越彰(ドラム)一噲幸弘(笛)

太鼓といえば無法松と思い立ち観ていなかった三船敏郎さんの『無法松の一生』を観ました。小倉祇園太鼓を打つ三船さん、くるくるっとバチを回したりして打ち方も力強いです。格好良い。さすがです。

今の打ち方は小倉の祇園太鼓ではないと、吉岡のぼんの五高の先生に説明しつつ太鼓を打ちます。流れ打ち、勇み打ち、暴れ打ちと説明しながら。この暴れ打ちは小倉祇園太鼓にはなくて、映像の見せるという形態によって生まれた打ち方で映画のために創作したもので、本元の小倉祇園太鼓は伝統を守り続けています。

『無法松の一生』の映画の見せ所としては、変化に富む打法を見せることにより車引きだけではない無法松の一面を見せる花道でもあるわけです。ただここから無法松は吉岡夫人(高峰秀子)に対する自分の気持ちとの葛藤に苦しみ死へと向かっていく事となります。

『無法松の一生』の映画に関しては色々なことがありますが、今回は太鼓で観ましたのでその事だけにします。

監督・稲垣浩/原作・岩下俊作/脚本・伊丹万作、稲垣浩/撮影・山田一大/音楽・団伊玖磨/出演・三船敏郎、高峰秀子、芥川比呂志、笠智衆、飯田蝶子、田中春男、多々良純、

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です