伝統歌舞伎保存会 研修発表会 (第18回)

伝統歌舞伎保存会では、歌舞伎俳優や歌舞伎関係の音楽演奏家の養成をおこなっており、そこで研修を受けた役者さんや演奏者の発表会が国立劇場でありました。

国立劇場では、全く歌舞伎を知らない人でも志望者を募集していて、そこで研修を受けることができます。また歌舞伎役者を師匠として入門しているひとも既成者研修を受けることができ、それらの経験者の発表会ということで、実際の公演舞台ではなかなか演じられることのない大きな役を演じることとなります。

今回は、10月国立劇場で公演されている『仮名手本忠臣蔵』の二段目「桃井館 力弥使者の場、松切りの場」三段目「足利館 松の間刃傷の場」を発表されたのです。

これが皆さん堂々と演じられ、緊張していて、ためておけないでテンポが速くなったり、衣装が上手く自分の動きにそってくれなくて、姿に見苦しさがでたりするのではと思ったのですが、そんなこともなく芝居の中に素直に入れました。

二段目などは、今月初めて観ましたから、今回で二回目ということとなり、三段目も台詞などを聞き逃していたり記憶からおちた部分などがよみがえり、観ている方も勉強になりました。若狭之助が、高師直に怒りをぶつけて去る場面で「ばかめ」の記憶が残っていて、河内山じゃないんだからそれだけではないなと思っていたのですが「ばかな侍めが」でした。と書きつつ「が」があったかなかったのか怪しいのですが。メモすればいいのでしょうが、いやなのです。正確ではなくても自分の中の空気は乱したくないので、そのうち図書館あたりで調べることにしましょう。

加古川本蔵や高師直などは、芝居の内容から顔の作りが老人になりますから、どうしても役者さんの若さが浮かんでしまいますが、役者さんたちはそんなことは意に介せず役になりきられていましたので、こちらもそれにのりました。

塩冶判官の着物の色が薄い鼠系というか水色系といおうか素敵な色でした。判官の役者さんとの映りもよくて、この色を選ばれたのは良かったとおもいます。もう少し濃い色が多いですが、判官と師直の関係と役者さんの関係からすると腹の深さが衣装の色に負けるということもありますので、そのあたりも検討してえらばれたのかどうか興味のあるところです。

戸無瀬と若い小浪、力弥との風格の差もはっきりし、若狭之助と本蔵の主従関係と松を切る意味合いも伝わり、刃傷沙汰に至る判官と師直の場面も細かく展開し、鷺坂伴内も道化役としての役目をはたしていました。

判官が刃傷に至り大名たちがそれを止めるため集まりますが、その時の長袴の動きがドタバタした感じがありそこだけ一つ気になりました。あれはリズムがあるのでしょう。咄嗟の出来事ではありますが、リアルさよりも美しさが大切とおもうのですが。そのくらいですね。観ている者の気持ちを乱されたのは。出の少ないほど芝居を乱すことがありますからこれが芝居の怖さであり、脇役の熟練度の重要性なのです。

研修生の皆さんの発表の場が増え、その力の認知度が高くなることを望んでおります。

二段目/桃井若狭之助(中村東三郎)本蔵妻戸無瀬(中村京紫)本蔵娘小浪(中村蝶次)大星力弥(大谷桂太郎)近習(中村蝶一郎)近習(坂東八重之)本蔵家来(片岡りき彌)本蔵家来(中村扇十郎)加古川本蔵(市川荒五郎)

三段目/塩冶判官(市川蔦之助)桃井若狭之助(松本錦次)鷺坂伴内(中村かなめ)大名中村富二朗)大名(片岡千藏)大名(中村蝶一郎)大名(坂東八重之)大名(片岡りき彌)大名(中村扇十郎)加古川本蔵(市川荒五郎)高師直(中村梅蔵)

竹本 浄瑠璃(竹本豊太夫)三味線(鶴澤翔也)/浄瑠璃(竹本六太夫)三味線(鶴澤公彦)/浄瑠璃(竹本東太夫)三味線(鶴澤公彦)

<お楽しみ座談会>

中村梅玉、市川左團次、市川團蔵、中村錦之助、市村萬次郎、市村橘太郎、中村米吉、中村隼人 / 司会・葛西聖司

歌舞伎のあとに、今回の指導をされた歌舞伎役者さんたちの座談会がありました。

司会の葛西さんが、仮名手本忠臣蔵を中心に、梅玉さん、左團次さん、團蔵さん、錦之助さん、萬次郎さん、橘太郎さんそれぞれが、どんな役をされてきたかを聞かれたのですが、芸歴が長いだけに皆さん様々な役をされていて、さらに、このときはどこの劇場でだれがこの役とこの役をされていたということも頭にしっかり入られていました。忠臣蔵は誰でもが全部の役の台詞が入っていなければならないのが基本だったそうで台本など渡されなかったというのです。恐ろしき世界です。

このかたから教えられたとか、他の子弟には教えるけれども自分の子弟には教えないので観て盗んだというような話があって、話しが進むにつれて次第に皆さんサイボーグにみえてきました。カチャ、カチッと受け取った芸が、技能の精度をたかめて身体にはめ込まれていく感じなんです。そうまさしくサイボーグです。

これは録音でもしておかなければ正確には伝えられない芸の歴史のながれです。

そのなかでお一人いつのまにかサイボーグの装着をどこかへ隠してしまう方がいらっしゃいましたがどなたかはお判りとおもいます。

若い米吉さんと隼人さんは、お客さまよりもこのサイボーグ軍団に緊張されたことでしょう。隼人さんの力弥は、田之助さんから教えを受け、米吉さんの小浪は魁春さんから教えを受け、さらに指導の側にもまわられたわけですから、この体験がより多くの事を感じるきっかけとなることでしょう。

一つ一つ人を通して積み重ねられてきた様子がわかり、観る側も大変興味深く聞かせてもらいました。

研修発表会は二回目ですが、なかなか楽しいです。

余談ですが、バレエのオーケストラの場合、指揮者によっては、あくまでも音楽優先で踊り手など無視で自分の音楽の世界観で指揮をする方もいて、踊り手が苦労することもあるそうです。その点歌舞伎は役者さんに合わせますから、歌舞伎の演奏者の腕は自由自在といえます。ツケ打ちの方もそうですね。芝居とともに音も作り上げていくというシステムがあってのことでしょう。

 

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