国立劇場 『仮名手本忠臣蔵』第二部(2)

六段目

勘平とおかるは、おかるの実家である与市兵衛の家に住んでいます。家には勘平はまだ帰っていなくて、お客がきています。お客は一文字屋の女将・お才(魁春)と判人の源六(團蔵)で、残りの半金50両を持ってきていておかる(菊之助)を連れて帰ろうとしています。

おかるの母・おかや(東蔵)は夫が帰らないので、昨夜与市兵衛に半金渡したからと言われても気がかりですが約束なのでおかるを渡し、おかるは駕籠に乗り花道で、夫の勘平(菊五郎)と出会います。勘平は駕籠を家に戻します。

それまで単純に考えていた源六も若主人が出て来たので道中着を羽織りに着替えて、女将に頭を下げ交渉に入ります。事情のわからなかった勘平もことの次第がわかり、女将さんが与市兵衛に渡したと同じ縞の財布を見せられ、自分が殺して金を奪ったのは舅の与市兵衛であったと思い込みます。最初は明るい華やかな勘平がことの次第を知り、変っていく様子が見どころです。

夫が帰って来てかいがいしく世話をし、お茶屋には行く必要がないといわれ喜んだおかるも、今度は行かなければならないであろうと夫にいわれて落胆します。その気持ちの流れを菊之助さんは夫の気持ちに合わせるようにして愛らしく表現しました。事情を知っている観客は別れを惜しむ二人のそれぞれの辛さがよくわかります。

魁春さんの一文字屋の女将には貫禄があり、交渉の團蔵さんに女衒の手並みの様子が自然とあらわれています。ここの場面でも煙草盆と煙草が活躍し、外の駕籠で待つ魁春さんの煙草を吸う様子は東海道中の浮世絵にでもありそうな風情で、家の中の複雑さとの対比として面白い絵となっています。人の動きが無駄なくよく整理されています。

どうすることもできずにおかるを去らせる勘平。そこへ、与市兵衛の死体が猟師仲間によって運ばれてきます。下に伏せて敷物を握りしめていく勘平。全て決められた動作ですが、こうした場合人はこうするであろうと思わせる苦悩ぶりです。形が自然な動作にまでなって、さらに観ている者を納得させる嘆きとなっているのです。

おかやは動転し、勘平が着替えるときに落とした縞の財布と勘平のしどろもどろの様子から勘平が殺したと確信します。勘平を思っての親心がこのようになるとは、おかやの苦しさと勘平の苦悩がぶつかり合います。菊五郎さんと東蔵さんのやりとりもそれぞれの気持ちが伝わります。

そこへ、原郷右衛門(歌六)と千崎弥五郎(権十郎)が訪ねてきます。勘平は着物を整え髪を直し逃げると思って自分から離れないおかやを後ろに従え応対します。

歌六さんと権十郎さんの様子と台詞に、事を構えた武士の雰囲気が漂い、田舎の家に違う空気を運んできます。しかし、事情を知った二人は、勘平を蔑み帰ろうとします。勘平は自分の罪を恥じて腹を切ります。切ない自分の気持ちを語る勘平。「色にふけったばっかりに、大事の場所にも在り合わず」ついに、ここまでの悲劇となってしまいました。弥五郎は、一応、与市兵衛の傷を確かめます。

与市兵衛の傷が刀傷であることが判明。来る途中、斧定九郎が鉄砲で撃たれた死骸をみているので疑い晴れて目出度く連判状に加えて貰えるのです。勘平もついに血判となります。

早まりし勘平ですが、遅かりし真実です。最初は些細な気持ちが、大事となり、それを挽回しようとしてもっと深見にはまってしまったのです。ここで這い上がろうという一途さと思いもよらぬ展開に当惑する苦悩への変化を菊五郎さんは積み重ねた芸で集大成のような勘平を造形され、それでいてゆとりも感じられました。

ところどころで入る太棹と義太夫もどうなることかと悲劇の流れを加速していき、今回はその調子もいいなあと思う気持ちにさせてもらいました。役者さんの動きがよいとそちらにも自然に働く作用が生じるのでしょうか。

さて、一文字屋へ行ったおかるはどうなるのでしょうか。

 

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