国立劇場 『仮名手本忠臣蔵』第二部(3)

七段目』<祇園一力茶屋の場>

勘平が亡くなってしまい、年季5年の奉公で給金100両でおかるは一文字屋へ売られていきました。年季5年といえども、衣類や生活品は自分で調達するのですから借金がかさみ、年季の期間は伸び、ここから抜け出せる一つの方法が大金をつんでくれる人がいて請け出されるというかたちです。

一力茶屋では、大星由良之助が放蕩している場所でもあり、おかると由良之助はどんな出会いをするのでしょうか。

幕が開くと華やかな祇園一力茶屋の部屋で仲居がずらり。花道からは、斧九太夫(橘三郎)と鷺坂伴内(吉之丞)が一力茶屋へ。斧九太夫は、おかるの父からお金を盗み、勘平に殺された定九郎の父で、城明け渡しの前の評議で貯えのお金の頭割りに反対したひとで、強欲な人物です。その人が師直側の鷺坂伴内といっしょです。なぜか。由良之助が師直を討つ気があるかどうかを見極めるためであり、伴内と内通しているのです。お金を積まれたのかもしれません。

さらに由良之助を訪ねてくるのが、赤垣源蔵(亀三郎)、矢間重太郎(亀寿)、竹森喜多八(隼人)、寺岡平右衛門(又五郎)です。由良之助の本心を確かめにきたのです。由良之助は目隠しをして店の者たちとの鬼ごっこ遊びです。店の華やかなにぎやかさ中での遊び人由良之助の吉右衛門さんの出です。

由良之助は遊びに興じている雰囲気のまま、血気だった三人と足軽の平右衛門を軽くあしらい難なく煙にまいて寝てしまいます。声の大きさだけでは勝てませんでした。そこへ力弥(種之助)が父のそばによりチャリンと刀の鍔音を鳴らせ門口へさります。刀の鍔音は、義太夫が説明してくれます。そこで観客は勝手にチャリンと音をつくっています。ほかのかたはカチッかもしれません。

由良之助酔ったまま、水をもってこいとか叫び仲居のこないのを見届けて門口へ行き、打って変わったきびしい態度で力弥から文を受け取ります。さっと帰る力弥を呼び止め「祇園町を離れてから急げ」と。この言葉好きです。用意周到な由良之助がぱっーとわかり腹もわかります。好い場面です。

すぐに文は読めません。九太夫が現れ宴席となり、亡き人の忌日の前夜を逮夜(たいや)というらしいのですが、主君の逮夜に生ものをすすめ、由良之助はにこやかに食べます。九太夫はこれで腑抜けな由良之助であろうと伴内に納得させ、自分はさらに手紙のことを知って情報を得ようと縁の下へ隠れます。

由良之助はやっと文を読むことができます。ところがその文を二階の部屋から鏡に写して読んでいたのがおかるなのです。おかるは雀右衛門さんです。由良之助は上のおかると下の九太夫に気がつきます。

騒がずあわてず上機嫌の様子は変えずに由良之助は、おかるを二階からおろし、身請けをして三日後には自由にするといい、店の主人に金を払ってくるからここにいるようにと告げます。おかるにとっては夢のようなはなしで、さっそく実家に手紙を書きます。そこに再びあらわれた平右衛門。かれは、おかるの兄だったのです。

身請けの話しを聞き平右衛門は考えます。このあたりが身分低い足軽の可笑しさをもあらわす場面で又五郎さんは一生懸命考えます。彼はかれなりの義士に加わる道を模索しているのです。平右衛門は理解します。由良之助は大事の文を読んだおかるの口を封じようとしているだと。妹のおかるを自らの手で亡き者として手柄としようと考える平右衛門。

二階の場から突然思わぬことの起こるおかるのしどころを雀右衛門さんは遊女であったり、妹であったり、娘であったり、妻であったりと変化をあらわし、勘平が死んだと聞いて覚悟の決まるおかるの気持ちをしっかりだし、そんなおかるを又五郎さんが受けとめます。

そこへ由良之助が止めにあらわれます。この時は国家老である由良之助その人です。平右衛門はあずまへの供を許され、勘平は加わっているが死んでいるため敵をひとりも討てないであの世で主君に会うのでは可哀想だからと、縁の下の裏切者九太夫を勘平の代わりにおかるに討たせるのです。

苦しむ九太夫を扇で打ち据える由良之助の吉右衛門さん。獅子身中の虫とはおまえのことだと怒り爆発です。建夜に魚肉を食べさせられた時の心中は、その時の笑みとは違う無念の苦渋だったわけで、ここまでの理不尽さを全てここではきだすような感じでした。

派手な放蕩遊びの鎧を脱ぎ捨て、あずま路に向けての道も決まり新たな心根の由良之助の吉右衛門さん、夫・勘平にはなむけできたおかるの雀右衛門さん、願いがかなった平右衛門の又五郎さんで一力茶屋での幕となりました。

あっ、斧九太夫さんの橘三郎さんもいました。平右衛門の背中でこれから鴨川で水雑炊を喰わされるのです。九太夫さん、やり過ぎたと思っても今回の由良之助さんには通じません。あとの祭りです。

 

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